光学設計ノーツ
光学設計ノーツ 10 (ver.1.0)
画像処理による歪曲収差補正について
1.歪曲収差の補正
画像処理による収差補正技術の内、現状でも十分に実用化されているのが歪曲収差の
補正である。ちょっと順序が入れ替わった感があるが、今回はこの収差補正の画像処理につい
て触れさせていただきたい。
基本的には歪曲収差補正に於いては像点位置の移動、歪んだ倍率の修正が行なわれる訳で
あるから比較的扱い易いのは明らかである。高倍率のズームレンズ等では歪曲収差の補正は困
難なものであって、そこから逃れられる事は収差補正的に非常に有利である。また安価な光学
系を考える場合にも有益である。
収差補正とは低次から高次に至る種々の複雑な収差のバランスをとる作業であるから、
純にそれらの相関関係を論じるのは容易くない。しかし、3次収差は光学系の回転対称性を鑑
みても光学系の根本的な傾向を表す重要な指標である。ここでもそれを利用して光学系中の第
ν面が球面で
0
r
N
hQh
の時,
N
ν
r
ν
ν、ανはそれぞれ第ν面の屈折率、曲率半径、近軸マージナル光線の通過
高さ、換算傾角を表す。
P
(1)
J
であり、ここから得られる
P
J - 
Ⅲ=
(2)
の関係を挙げる。Ⅲは光学系全体の非点収差、νは各面における歪曲収差の 3次収差係数で
あり、Pは全系のペッツバール和、Jν2種類の近軸光線による各面独自の補助係数である。
3次非点収差係数は各面のⅤνに影響され、その補正のためには(2)式右辺 1項とペッツバール
和とのバランスを保つことが要請される。右辺第 1項は Jνとの商の形になるので、全系の歪
曲収差係数とは単純に結び付けられないが、νの各面の和によって得られる全体の歪曲収差
に拘らなくても済むことは設計の自由度の点で点収差補正には有利に働く事は明らかである。
2.歪曲収差と瞳収差の関係
また、全系を通じての 3次の瞳のコマ収差係数Ⅱsと実歪曲収差係数Ⅴの間には以下の関係が
存在する(図1)
22
S
NN
-
Ⅴ= (3)
N,N’は物界、像界の屈折率であり、
は物界、像界での近軸主光線の角度である。主光
線の物界と像界での角度の差と共に、全系の歪曲収差係数が大きな影響を与える事が分かる。
従って歪曲収差の変動により瞳収差も大きく変動し、入射瞳上の強度分布と比べ、射出瞳上の
強度分布に変化が生じる。とくに主光線の角度が大きく異なる光学系では、周辺光量を稼ぐ事
も可能ではあるが、効果が重なり、射出瞳上での大きな強度分布ムラを生じる。PSFMTF
計算においては注意が必要である。
ここで、別 の角
度からこの 事柄
図1 歪曲、瞳のコマ収差係数を考える場合の近軸主光線
を考えるために、少々手間を掛けて光学系の軸外結像における照度を計算しよう。
図2にある様に、円形の瞳に光束が吸い込まれ、射出していく状態を考える。絞りが円形
であれば軸外結像の場合こうした現象は起こりにくいが、ここではこの様な分かり易い基本状
態を仮定する。入射瞳半径を
a
とし、微小光源から瞳までの距離をrとすれば、
a
=
r
sinθであ
り、瞳上の微小帯面積に張られる微小立体角 dΩは
d
r
rdr
dsin2
sin2
2
(4)
よって微小光源面積
ds
から
dΩ
に放射される微小放射束 dφは
dsdBd
coscossin2 (5)
である。そもそも画角成分ωにより瞳方面から見込んだ光源面積
ds
cos
ω
掛かった分小さ
く見え、さらに光束の開き角θの cos
ds
が輪帯方向からは小さく見える、とここでは考え
る。少々荒っぽい考えの様であるが、より丁寧に光束の上側の光線について考えるとその時に
光線方向から見た目の
ds
には以下の cos が掛かる。
sinsincoscoscos
(6)
光束の下側の光線については
sinsincoscoscos
(7)
よって(6)+(7)式の結果を2で割って平均をとれば cosωcosθとなり(5)式の内容と一致する。
取りあえずは妥当な近似であろう。
さて、開き角度を変数αとしてその最大角をθと改めて置き直せば、総放射束は上式より
0
cossincos2 ddsB
2
sincos dsB (4)
同様に像界においても輝度は不変であるとして
2
sincos sdB (5)
輝度不変則より B=B’と出来る。また(4)式から像面照度を考えれば
2
sincosB
sd
ds
E
(6)
或いは
2
sincosBE (7)
となる。(6)式から ds’が小さくなれば照度が向上することが分かる。これは変倍時、或いは歪
曲収差の発生により横倍率が部分的に変化した場合に起きる。ds’が小さくなっても、像界、
物界においてエネルギーは保存さねばならぬので(5)式においては、θが大きくなるかωが小
さくなる必要がある。ωはまさに主光線の方向を表し、(3)式における
に対応している。
ネルギー保存則的には、この像界での主光線角度が変化或いは、やはり像界での光束の集光角
θの変化が要請され、像面位置が固定されている場合には、これは
が特定の値を採るとき
以外は射出瞳が、この画角に対しては、肥大化することを意味し、瞳収差の存在を示唆する。
まさに(3)式の表す現象を示している。歪曲収差により ds’が変化する場合には主光線方向ω
も自ずと歪曲収差により増減の同じ方向に変化することに留意せねばならない。
3. 参考文献
1) 松居吉哉:レンズ設計法(共立出版、東京、1972)
2) 牛山善太、草川徹:シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003)
3) 日本光学会第 35 回冬季講習会テキスト(2009
図2 微小面積像の明るさの計算