光学設計ノーツ
光学設計ノーツ (ver.1.0)
平行平面板硝子による干渉縞
前回は硝子基板上の光学薄膜による反射率・透過率の変化について考えた
が、今回は同じ様な薄い誘電体層により(空気中に単独で存在すると考えるが)
形成され、ある測定位置においてのみ観察可能な局在する干渉縞について考え
よう。
1. 平行薄板による干渉
-1 に示すように空気中に置いた屈折率n、厚さdの薄く透明な平行平
板を考えよう。点光源からの単色光が Aで入射角で入射するとする。Aにお
いて一部の光はフレネルの公式の表わす通り、反射し R1に向かい他の光はス
ネルの法則
sinsin
n -(1)
に基づき角度で屈折され、薄板中に入射し Bに向かう。ここで、先程と同様
に一部光は反射され A’に向かい、残りは屈折光として射出する。A’においては、
やはり反射と屈折が起こり結果的に C’方向の反射光と透過方向への光に分かれ
る。この様な現象は繰り返されることになる。
前回の多重反射光の合成振幅を表す(1)式、右辺 3項以降から分かるとおり、
反射率が十分に低ければ、2面に於いて 2回以上(合計 3回以上)反射して 1
面から空気中に戻る反射光の影響は無視できよう。ここでは C,C’の光波につい
てのみ取り扱う。
さて、反射光 AC AC’は明らかにお互いに平行となる。そこでレンズを適
切に配置すればその焦点面 Fにこうした二つの光波の干渉による、入射角度の
違いによって異なる場所に形成される干渉縞を観測することが出来る。図 1
は、今のところ微小な光源からの一本の光線による分岐しか示されていないが、
光源面積の拡張については後で考える。ここでは点光源からの球面波の平面波
と看做せるような極一部分の進行方向を光線で表し、それらの干渉について考
えよう。そして勿論、干渉現象自体は前回の反射防止膜のところで考えた様に、
レンズを置かなくとも、或いは無限位置で観察しなくとも現われる訳である。
n
θ
θ
1
2
A
B
A’
C
C’
P
さて、光波は薄板の境界面により反射、透過光に分割され、その強度、つ
まりは振幅が分割されるのでこの様な干渉を振幅分割型干渉と言う。(これに
対してヤングの干渉縞における様にスリットなどで一つの波面を空間的に分割
する方式を波面分割型と呼ぶ。
C,C’の光路差は図中の交点 Pを考えて
AKBAABn '

sintan2
cos
2
d
nd
(1)式から

sintan2
cos
2nd
nd
cos
sin12 2
nd
cos2nd -(2)
また、C,C’に達する二つの反射光の間には一般的にの位相差が生じる。参考文献
3)P47 よって、C,C’の位相差は
2
1
cos2
2nd -(3)
となり、位相差は
n,d
が定まっているとすれば入射角のみにより決まり、
源の位置に影響を受けない。この様な干渉は等傾角干渉と呼ばれる。拡散光源
Sから出る光は様々な角度で射出しレンズ Lに向かうので焦点面 Fには(3)式で
得られる位相差ごとの干渉縞が生まれる。明るい縞は Nを整数として
Nnd 2cos2
2
-(4)
暗い縞は
)12(cos2
2
Nnd -(5)
の時に生じる。そこで(4)式においてが小さいと考えて
2
1cos
2
sin -(6)
として(1)式の関係を用いると
N
n
nd 2
2
12
2
2
2
について計算して行くと

124
2
2 Nnd
d
n -(7)
なる入力条件のとき干渉縞が生じる。これを等傾角干渉縞と呼ぶ。
また、AA’の間隔を考えると、
tan2dAA -(8)
である。入射光線の入射角度が倒れ、また硝子の厚さが増して行けば二つの光
線の間隔が開いていく事が分かる。従って微小な光源を用いた場合、レンズ、
眼の瞳の大きさにより制限されて、干渉光の片方が観測面に到達しない事が容
易に起こりえる。この場合は干渉縞は消えてしまう。
-2 ある様に=0 の場合の反射角方向、すなわち薄板の垂直方
向に光軸を持つようにレンズ Lを配置する。こうすれば=0 を中心とした小さ
な入射角の範囲で、実際的な厚い硝子を用いても確実に干渉縞を観測する事が
出来る。焦点面 F面上で、光軸との交点からの距離rにおける干渉縞を考えれ
ば、焦点距離をfとした場合、入射角度は近軸的に=r/f とすることが出来て
(7)式から
2
1
2
2
2Nnd
d
nf
r -(9)
の位置に明るい干渉縞が生じる。これは光軸を中心とした同心円状の縞模様を
表わす。これをハイディンガー(Haidinger)の縞と呼ぶ。
点光源の代わりに面積を持った光源を考えると、この干渉縞は光源の位置
には依存しないため、異なる点光源から出発しても、同じ角度の光線は観測面
の同じ位置に(無収差レンズの焦点面上の光線通過点位置は入射光線の角度の
みに依存する)平行平面板で分岐した光線は常に(5)式で表される同じ位相関
係を持って到着し、同じ干渉縞が生じる。さらに、光源面を形成する微小光源
がインコヒーレント(位相的に互いに無関係に光を放射している)であれば、
互いの観測面上の波動は干渉せず、それぞれの単独の強度(最大振幅の二乗に
比例)の和として重なり合って、鮮明度をそこなう事の無い明るい干渉縞が得
られる。肉眼でも、うまく無限遠にピントを合わせられれば、網膜上に干渉縞
を形成させる事が可能である。
この様な干渉縞が成り立つのは、以上、述べてきた理由により観察がレンズの
焦点面において行なわれる場合、つまりレンズが無い場合で言えば無限遠の位
置において観察される場合においてのみである。もし特定の有限位置で干渉を
観測しようとすれば(この場合、レンズは必要なくなるが)、確かに点光源か
平行平面板
面光源
レンズ
ハーフミラー
平行平面板
面光源
レンズ
ハーフミラー
2
ら異なる方向に射出する2光波が新しい観測面上の任意の点で特定の位相差を
持って交わるのではあるが(-3)、この点光源近傍の幾つかの点光源から放
射する他の2光波のこの測定点における位相差は一定では無く、これらの光波
が重なり合うことによりコヒーレンスの低下を招き干渉縞を生じない。鮮明度
の高い干渉縞が生じる範囲は狭く限られることになる。これを干渉縞の局在と
言う。これに対しヤングの干渉縞の様にスクリーンをどこの位置においても観
察できる干渉縞を局在しない干渉縞と呼ぶ。
参考文献
1) 辻内順平:光学概論(朝倉書店、東京、1979
2) M.Born & E.Wolf :Principles of Optics,6th edition(Pergamon Press,
Oxford,1993)(草、横:光の原(東,1977)
3) :波エンジニアリングの基(オプトロニクス社、東、2005
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点光源
n
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点光源
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