光学設計ノーツ 37 (ver,1.0)
部分的コヒーレント結像の考え方
顕微鏡の照明による解像力の変化
今回は、物体を照らす、顕微鏡の照明系のあり方により、コヒーレントに照明される物体領
域が変化し、対物レンズによって得られる物体像の解像力が変化する様子を解説させていただく。
光学設計と部分的なコヒーレント結像の考え方を最も顕著に結びつける部分でもある。
1. 臨界照明法
物体平面上の近接した2個のピンホールを考え、それらが臨界照明法(図 1により照
明される場合の、光学系(対物レンズ)による結像について、レーリーの解像限界を用いて検
討してみよう。
1に示すように、SOO’をそれぞれ光軸に直交して存在する光源面、コンデンサ
ーレンズ主平面、物体平面(ピンホールが存在)とし、物体面上のピンホールを P1
X
1,
Y
1,P2
X
2,
Y
2)とする。一般的に物体面上における光源の像(2次光源)の大きさは、光源点の
点像のエアリーディスクより遥かに大きい。本連載35回(20)式の状態である。本連載33
回で検討した如くに、この様な場合には物体面における複素コヒーレンス度は、コンデン
サーレンズの射出瞳にインコヒーレントな光源が存在する場合と等しい。
さて、これらのピンホールにおける複素コヒーレンス度μ12 については、コンデンサー
レンズの収差が存在しないと仮定し、開口面領域がそう大きくなければ、ファンシッター・
ツエルニケの定理より、本連載34回(1)式、

i
v
vJ exp
21
12
(34-1)
が成り立ち、また、開口上の点 Oを考えた時、OP1OP2<<λ と考えれば、

12
121
2112
2
,u
uJ
PP
(1)
この時、
CC
nu
sin
2
0
12 (2)

2
21
2
2121 YYXXPP
であり、 CC
n
sin はコンデンサーレンズの像側開口数(NA)である。
ここで、物体面上の任意の点 P(
X,Y
)のやはり無収差の対物レンズによる共役点 P’を考
える。ピンホール P1の像は、その像点 P1を中心とするフラウンホーファー回折像となり、
P1から影響による P’における強度は、
n
0sinθ0を対物レンズの開口数として
  
2
1
11
2
11
2
v
vJ
PUPI (3)

00
2
1
2
1
0
1sin
2
nYYXXv (4)
となる。
I
2(P’)についても同様の結果が導け、これらの結果を本連載32回(12)式に代入す
れば、P‘が P1’,P2の極近傍に存在するとして τ<<
であれば、
Jn
(
x
)は実関数であるので、
    
2
21
1
11
12
2
2
21
2
1
11 22
2
22
v
vJ
v
vJ
v
vJ
v
vJ
PI
(5)
ここで、
12
121
12
2
mv
mvJ
(6)
と表記しよう。ただし、NACNAOをそれぞれ、コンデンサーレンズ、対物レンズの開口
数を表すとして、
O
CCC NA
NA
n
n
m
00 sin
sin
(7)

00
2
21
2
21
0
12
12 sin
2
nYYXX
m
u
v (8)
である。この mをコヒーレンスファクターと呼ぶ。
(5)-(8)式は P’と2物点(ピンホール)の位置、そして対物レンズ、及びコンデンサーレ
ンズの NA によって像面上、任意の点 P’における強度 I(P’)が求められることを表わしてい
る。
さて、ここで(5)式の特別な場合について検討してみよう。(6)式における
v
12
J
1( )
を0にする場合を考える(
v
12=0 の場合は除く)
12=0 となるので(5)式より
  
2
2
21
2
1
11 22
v
vJ
v
vJ
PI -(9)
(3)式の表現では、

PIPIPI
21 -(10)
となり、P1,P2がインコヒーレントな点光源である場合と同様の強度分布が得られることが
理解できる。特に、コンデンサーと対物レンズの NA が等しく、
=1の場合には、
12=1.22
のとき、
J
1(
12)=0 となり(9)のインコヒーレントな関係が成立する。この時
22.1sin
2
2112 oo
nPP -(11)
であるから

oo
n
mLPP
sin
21 -(12)
と置いた時に、
m
=1
L
(
m
)=0.61 である。フラウンホーファー回折像のエアリーディスク
の半径に等しく、レーリーの解像限界を表わす距離である。
21 PP を大きな値とすれば
(6)-(8)式より μ120となり()式により表される分布を想定できる。
ここで、別の極端なケース、コンデンサーレンズの開口数が非常に小さく
m
0の場合
を考えると、
1
2
12
121
12 mv
mvJ
-(13)
よって、(5)式は
  
2
2
21
1
11 22
v
vJ
v
vJ
PI -(14)
或いは


2
21 PUPUPI
-(15)
とも表せる。この場合の強度分布はピンホールの間隔に無関係に、完全にコヒーレントに
照明されたものと等しい。
さて、公式(5)式より、顕微鏡対物レンズの像面上における強度分布と、開口数の比、
コヒーレンスファクター
との関係を知ることが出来る。特に P’1P’2の中点の位置に観
測点 P’をとり、その中点の強度と、両側の2点の強度の比較により、解像限界の 21 PP
の関係を計算できる。因みに、強度ピークに比べて、中点の凹みが 26.5%以上の時は2点
は分離して確認できる、とするのが既述のレーリーのクリテリオンであり、ここではその
限界を採用しよう。
の変化に連れて(5)式より得られる P’の強度が P’1,P’2の26.5%と
なる P’1,P’2の距離を計算すれば、(12)式の
L
(
m
)が変化する。
この変化の計算結果を図 2に示す。コンデンサー開口数が対物レンズのそれの 1.5 倍程
度の時に最良の分解能が得られていることが理解できる。因みに
m
=1 の場合には、上述の
様に(12)式で表わされるインコヒーレントな場合がレーリーの限界、26.5%制限と一致する。
又、
m
=0 のコヒーレントな場合には解像力は低下する。
コヒーレンスファクターmは対物レンズの NAoにより決まるフラウンホーファー回折
像の大きさと、NAc決まる原稿上のコヒーレント照明領域(結果的にフラウンホーファ
ー回折像と同形になる)の大きさの比を表していることが理解できる。
対物レンズの解像限界幅に比べ、十分な大きさのコヒーレント照明領域が提供されて
いる時(m→0の場合)広範囲なコヒーレント領域は NACが0に近づくことにより実現さ
れるのであるが、それはコヒーレント性の強い照明―結像系と考えられる。インコヒーレ
ント領域の目安とされるm=1 の場合には、エアリーディスク半径の 1/4 強程度の幅しかコ
ヒーレント照明領域が存在しないことになる。一般的な投射照明系に用いられる対物(投
影)レンズの場合のように NAOが比較的小さい場合には、原稿面の任意の2点の複素コヒ
ーレンス度はコンデンサーレンズの NACによりひとえに決まるので、非常に大きなmを得
ることも可能であるが、高 NAOの結像系を用いる場合には NACに限界がある為に、m=1
を遥かに超えた、完全にインコヒーレントと看做せる系を得ることは実は難しい。
3. 参考文献
1) M.Born&E.Wolf:光学の原理Ⅲ、第 7 版/草川徹訳(東海大学出版会、東京、2005)
2) 小瀬輝次:フーリエ結像論(共立出版社、東京、1979)
3) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)