光学設計ノーツ 41 (ver.1.0)
部分的コヒーレント結像の考え方 11
部分的コヒーレント光学系の OTF 2
前回に引き続き、部分的コヒーレント照明下における結像光学系の OTF について解説
させていただく。
3. 代表的な部分的コヒーレント光学系の OTF 計算
さて、ここで本連載39回(11)式、

DD YXJ ,
12
 

2121121221212211 2exp,,,,, dydydxdxYyyXxxiyyxxRyxoyxo DD

39-11
ただし、


2121122121 ,,,, DDDD YYXXKyyxxR
2211 ,, DDDDDDDD YYXXASFYYXXASF
22221111 2exp2exp yYYxXXiyYYxXXi DDDDDDDD
2121 DDDD dYdYdXdX 39-10
或いは(39-12)式
 

11111112 2exp,, dydxYyXxiyxoYXJ DDDD
 

222222 2exp, dydxYyXxiyxo DD

2
,,, DDDDDD YXOYXOYXO 39-12
における、瞳上の
x
1,
x
2座標について考えてみよう。39-7)式


1111111111 2exp,, dydxYyXxiyxoYXO DDDD
39-7


2222222222 2exp,, dydxYyXxiyxoYXO DDDD
の通り、物体面空間座標とのフーリエ変換の関係により、
o
(
x
1,
y
1),
o
*(
x
2,
y
2)は物体振幅透過
率分布のスペクトル、および、その共役スペクトルを表しており、(
x
1,
y
1),(
x
2,
y
2)は、瞳面上
の座標であると同時に空間周波数を表している。また、TCC は一定の空間周波数のみから
決まるのではなく、2種類の{(
x
1,
y
1),(
x
2,
y
2)なる空間周波数同士の組み合わせで表現され
ることになる。従って、多くの周波数成分を持つ物体を扱う時、39-11)式の強度の計算
においては、全領域における TCC (
x
1
y
1),(
x
2,
y
2)の総ての組み合わせについての積分が必
要になり、前回40回における(8)式、
  
dydxyyxxfyyxxfyxs
K
K
CyxyxR E

2211
2
2211 ,,,,,,
40-8
を鑑みても計算量は膨大となることが分かる。
しかし、像の再現ではなく、コヒーレンシーを考慮した光学系の結像性能評価を目的
とすれば、これらの計算方法を役立てるためには、特に結像に重要な役割を果たす、或い
は結像性能を表現するのに代表的な周波数に注目して非常に基本的な、周波数成分のごく
限られた周期構造を持つ物体を考慮すればよい。
例えば、正弦波格子である。その振幅透過率は一次元的に
方向について、
 
XrXO
0
2cos1
2
1
1
と表現できる。そのフーリエ変換は3つのデルタ関数により表され、それらの位置は0、
r
0
r
0であり、瞳上の座標に対応する。特定の周波数 0
rの正弦波格子像の減衰を調べるため
(
x
1,
x
2)を、基本的なバックグラウンド光としての 0次光と、注目する周波数との組み合わ

0,
0
rとして計算した

0,
0
rR を、この場合の部分的コヒーレント光学系の OTF と定義す
る。この OTF の定義の妥当性を、インコヒーレント系や、コヒーレント系の OTF との関
連を通して検討しよう。
コヒーレント光学系の場合には等価光源
s
E
(
x
)は面積的広がりを持たず、δ関数として
表現できるので、(40-8)式は、一次元で考えて(後で、OTF を正規化するので K/K’=1 と置
いて)

dxxxfxxfxCxxR 21
2
21 ,
δ関数の定義より、

21
2xfxfC 2
ここで、

0,, 21 rxx とおくと、

00, 2
frfCrR 3
また、

000,0 2
ffCR 4
であり、瞳関数を
f
(0)=1 として OTF

0,0
0,
R
rR
OTF 5
と正規化し、定義しなおせば、コヒーレント光学系の OTF
rfOTF
6
である。
理論的なインコヒーレント系計算の場合には、等価光源強度分布はxに無関係であり
定数であるので、透過光源面積を
K’
として既出の
K
と共に、
K/K’
=1 とおけば40-8)式

dxxxfxxfCxxR 21
2
21 ,7
よって、
 
dxxfrxfCrR 2
0, 8
 
dxxfxfCR 2
0,0 9
となる。(9)式右辺の積分は瞳面積
A
を表すので、5)式の OTF の定義を用いて

 
dxxfrxf
AR
rR
OTF 1
0,0
0,
10
となる。
4. 部分的コヒーレント OTF 計算式の解釈
実寸法座標で考えると物体面上の換算量
X
D
と実寸
X
との間には第 38 回(2)式のと
おり
X
D
=
X
/(λR)の関係があるので、瞳座標は実寸の
λR
倍となる。従って、実寸法座標で
0,0,, 2211 yxsyrx とおいて、40-8)式は
 
dxdyyxfsyrxfyxsRCsrR E,,,0,0,, 4
2
11
となる。さらに以下の様に正規化して、
2
,, yxfyxS として、瞳上の透過強度分布(一
般的なレンズの場合には、透過が1、それ以外の場合が 0となり開口形状を表す。)を
ると部分的コヒーレント光学系の OTF が得られる。
 


dxdyyxSyxs
dxdyyxfsyrxfyxs
srOTF
E
E
,,
,,,
,12
1に(12)式の積分の様子を図示する。
ここでは
Ⅰ)
f
(
x,y
)
s
r
,
シフトした同関数の重なった面積と同時に、この面積と、
Ⅱ)任意の等価光源面積の重なった面積についての積分を行わなければならない。
もし、等価光源の大きさが光学系の入射瞳径より大きい場合には、Ⅰ)の面積は必ずⅡ)
の面積に含まれることになり s(
,y
)=1 とした場合のインコヒーレント光源による OTF
等しくなる(2(a))
1 部分的コヒーレントな場合の伝達関数積分計算
部分的コヒーレントな場合には、等価光源の大きさが瞳径より小さい必要がある。その場
合にも、二つの領域があり、Ⅰ)の面積にⅡ)の面積が含まれている場合、つまり最大の
横ずれの結果による重なり面積に、等価光源の大きさが含まれてしまう場合には、OTF
1となり変化しない(2(b))
しかし、その領域を過ぎて、横ずれ量が大きくなると次第に横ずれ面積Ⅰ内に等価光源が
含まれなくなり OTF は減衰していく(2(c))。そして、等価光源面積Ⅱを、瞳の重なりⅠ
が通り過ぎるとき OTF 0になり、遮断される。従って、瞳径を一定に考えると、等価光
源面積が小さくなる時、OTF=1の周波数領域は広がるが遮断はより低周波数時に起き
OTF が値を持つ範囲自体は狭くなる。
5. 参考文献
1) M.Born & E.Wolf :光学の原理Ⅲ、第 7/草川徹訳(東海大学出版会、東京、2005)
2) 小瀬輝次:フーリエ結像論(共立出版,東京,1979)
3) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)
伝達関数積分における等価光源と周波数の関係