光学設計ノーツ 54(ver.1.0)
光波の平面波合成による記述
今回は、回折などの波動現象を考慮して、収差を持つレンズ等により構成される光学系の
性能評価を行わなければ成らない様な場合に、有力な計算手段を提供する、電場の平面波
合成による表現について解説させていただきたい。
1. 光波の記述
マクスウェルの方程式より、実電荷が無く、εを誘電率、μを透磁率として、これ
らの値が空間的に一様である場合には(等方性媒質)

1
v (a)
なる媒質中の速度 vを導入して、
2
2
22
2
2
2
2
21
t
E
z
E
y
E
x
E
b
磁場についても、
2
2
22
2
2
2
2
21
t
H
z
H
y
H
x
H
c
のベクトル波動方程式が得られる。また、ここから電界、磁界ベクトルのいずれかの成分
をスカラ関数に対応させて、さらに、時間に依存しない波動方程式を導くと
0
2
2
2
2
2
2
2
uk
z
u
y
u
x
u
-(1)
なるスカラのヘルムホルツ方程式を得ることが出来る。
平面波の一般形(
A
は最大振幅)
rkiAu
exp -(2)
を考え、αβγ を平面波進行方向を表す方向余弦とすれば、
α222=1

,,
2
k
であり、 (2)式は
 
zyx
i
Azyxu
2
exp,,
と置ける。ここで、様々な方向に進行する平面波の重ねあわせによる、新たな波動を表す
複素関数を改めて
u
( )とすれば、総ての平面波の方向は α、β で定まるので

ddzyxiAzyxu 2exp,,, -(3)
と表現することが可能である。
ところで、一旦、平面波のことは忘れて、
=0 面における複素振幅分布を
u
(
x
y
0)
するとき、この関数のフーリエスペクトルは以下のように表わされる。


dxdyyfxfiyxuffA yxyx
2exp0;,0;, 4
さらに逆フーリエ変換により、

yxyxyx dfdfyfxfiffAyxu
2exp,0,, (5)
ここで、(5)式に於いて
yx ff , )
1
(2
222
zyx fff -(6)
とおき、平面波を考えた(3)式に於いてz=0とすれば、両式は一致する。z=0 における
光波(振幅分布)は様々な方向に進行する要素平面波の合成で記述できることがわかる。
また、そこでは進行方向に対する要素平面波振幅の逆フーリエ変換として
u
(
x,y
;0)が得られ
る。
2.光波の伝播
(4)(5)式と同様に、光波が進行し任意の固定された
座標におけるフー
リエスペクトルと振幅を考えれば、

dxdyyfxfizyxuzffA yxyx
2exp;,;, -(7)


yxyxyx dfdfyfxfizffAzyxu
2exp;,,,
となる。ここでの光波の振幅関数は(1)式を満たす必要があるので(8)式を(1)式
u
(
x,y,z
)に代入して、式中の微分をそのまま計算すると


zA
z
zA ;,;,1
2
2
2
22
2
02exp
ddyxi -(9)
となる。この式も逆フーリエ変換になっているので、両辺をフーリエ変換すると

0;,;,1
2
2
2
22
2
zA
z
zA
-(10)
なる条件を得る。ここで、この微分方程式を解くために、変数分離型の解として、
()
なる関数と係数
を導入して

tzgzA exp,;,
-(11)
の形を考えれば、(11)式および(11)式の 2回微分を(10)式に代入すると、exp(
tz
)0
なので
が得られ、(10)式の解として
)1(
2
exp,;, 22
zgzA -(12)
が得られる。関数
()は任意であり、初期条件と考えられるので
z
=0 におけるスペクト
ルを用いる。
)1(
2
exp0;,;, 22
zAzA -(13)
ここで、実際の方向余弦のように1>α2+β2であれば、13)式の如くに関数g()を
決めたので光波は
z
=0 から
z
>0に向かうと考へられて、根号は+が選択され、以下の様に
出来る。
22
1
2
exp0;,;,
i
zAzA -(14)
上式における
を含む項は位相変化を表わし、0から
までの平面波の伝播を表現してい
(位相の変化しか起こらないので)従って、
z
=0 面上における振幅分布
u
(
x,y,
0)が与えら
れれば、(4)式から、
z
=0 における要素平面波の進行方向に依存する振幅分布
0;,
A
が得られる。そして、その分布から(14)式により、所望の伝播距離
離れた平面にお
ける
zA ;,
が得られ、(8)式から
u
(
x,y,z
)が得られることになる。また、ここから新
たな、同様の計算をスタートすることが出来る。
3. 参考文献
1) M.Born & E.Wolf :Principles of Optics,7th edition(Pergamon Press,
Oxford,1993)草川徹訳:光学の原理(東海大学出版会,2005)
2) ヤリーブ:光エレクトロニクス基礎編(多田邦夫、神谷武志監訳)
(丸善、東京、2002)
3) J.W.Goodman:Introduction to Fourier Optics 2nd.edi.
(McGraw-Hill,NewYork,1996)
4) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)