光学設計ノーツ 63 (ver.1.1)
導体中の光波の進行・複素屈折率
前回は波数
k
のより一般的な表示を行う際に必要になる、吸収などを含む、導体中の
光波の挙動を表現する方程式について考えたが、今回はその結果を用いて、導体中の光波の
進行について、また複素屈折率について解説させていただく。
1. 複素屈折率
ここまでは、多くの場合には電荷を含まず、電場を加えても電流が生じない媒質、誘電
体の境界面における反射屈折について考えてきたが、ここでは導体境界面における反射に
ついて考えてみよう。
等方で均一な誘電体中におけるマクスウェルの方程式から、各周波数 、透磁率
誘電率 を用いて以下のヘルムホルツ方程式が導ける(本連載 62 (15)式)
0
22 EE

(1)
しかし、導体中においては(1)式は、電流が生じることに付随した導電率 を用いて、
以下の様に表すことができる。
0
22
EiE

(2)
この(2)式は本連載、前回の(16)式と同様の式である。ここで、(1),(2)式の比較において
複素誘電率( complex dielectric constant )
ˆなるものを、複素比誘電率 r
ˆ、真空中の誘
電率
0を用いて、
i
r ˆˆ 0 (3)
と定義したことを思い出して戴きたい。(2)式においては誘電率を、この複素誘電率に形式
的に置き換えることにより(1)式と同様なものとして考えることが出来る。これに付随して、
複素位相速度 ( complex phase velocity )
rr
c
v
ˆ
ˆ0
(4)
そして、複素屈折率 (complex refractive index ) なども定義されて、
rr
v
c
n
ˆ
ˆ0 (5)
となる。また、複素屈折率は消衰係数 ( attenuation index ) を用いて、以下のように表
わす。
inn
1
ˆ (6)
ここで、(3),(5)式から、ε=εr ε0であるから
0
2ˆ
ˆ

in rrrr (7)
(6)式を 2 乗して、σは十分に長い波長に対しては、実数と看做すことができるので、(7)式
と実部、虚部を比較すれば、
rr
n
22 1 (8)
0
2
2

r
n (9)
が得られる。(9)、(8)式からを消去すると、
0
42
0
2
22
24
r
rr nn
よって、根の方程式より、
rr
r
r
r
n
2
0
2
22
2
2
2
2
1
(10)
また、この結果と(8)式より、
rr
r
r
r
n
2
0
2
22
2
2
22
2
1 (11)
が得られる。nとが実数であるので(10),(11)式左辺は正となり、平方根の符号は正が選択
される。
2. 導体中の光波の進行
さて、ここで、単に導体中、
軸方向に進む平面波を考えよう。ここで、複素波数
( complex wave number ) n
k
ˆなるものを考えれば、もともと波数
k
n
,真空中の波数
k
用いて、
kn
c
n
v
k
n
n
0
(12)
と表わせるので、
iknnkkn 1
ˆ
ˆ (13)
なる値を
tkxiEE
exp
0
に導入して、
txkiEE n
ˆ
exp
0
(13)式より、
txiknknxiEE
exp
0
xkntknxiEE
exp
0
従って、

tknxixknEE
expexp
0
(14)
とすることができる。(14) 式中、第二の指数項は
方向への平面波を表わすが、第一項は
の増大に伴い振幅
E
0を減衰させる働きを行なっている。 が消衰係数と呼ばれる所以で
ある。
金属内に入った光波の振幅が 1/e に減衰する距離 ( 表皮深さ )
x
d
とすれば、(14)
から簡単に、
1
d
xkn
なる条件が必要なことが分かり、
nkn
xd2
1 (15)
となるので、(11)式の結果から、
x
d
の値を得ることが出来る。完全導体中、導電率
となれば
x
d
0となることが理解できる。斯様に、導体内、特に金属内に入り込む光は、
急速に吸収され(全反射の場合と異なる)、減衰するので我々は金属境界面においての現象
としては反射を、主に考慮することになる。
因みに、誘電体では電導率 0となるため(10),(11)式において、
rr
n
216A
0
22
n (16B)
となるが、実在の導体に於いて電導率 は、これらの間の有限の値をとる。
3. 参考文献
[1] M.Born & E.Wolf : Principles of Optics, 6th edition (Pergamon Press, Oxford,1993)
/草川徹、横田英嗣訳:光学の原理(東海大学出版会,1977), pp.237- 239.
[2] 辻内順平:光学概論Ⅰ(朝倉書店、東京、1979, pp.42- 46.
[3] 龍岡静夫:光工学の基礎(昭晃堂、東京、1990, pp.171-172.
[4] 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス、東京、2005.