光学設計ノーツ
光学設計ノーツ (ver.1.0)
エッジの結像とその画像処理と光学設計について
1.はじめに、物体の位置
一般的なマシンビジョンにおいて、あるいはデジタル画像のエッジの補正において、
物点とこれに対応する点像の位置の対応が正確に認知出来ることは重要なことであり、意
外と困難が付きまとう。単純な点像の位置ズレである歪曲収差の影響を除いたとしても、
収差により、ある程度の大きさの広がりを持ってしまう点像のどこが、正しい結像の位置
を示しているのかを知る事は、簡単なことではない。例えば極小さな点光源の動きを観察
する場合、その位置を正確に知るに際し、PSF 範囲内で誤差が起こりえる。光学設計時
の主光線到着位置とは測定上は便宜的なものであるし、非対称性収差が発生した場合には
照度の重心位置が必ずしも基準となり得る訳ではない。下記のエッジ強調処理の場合にも、
エッジを画像処理的に立てても、その位置が、傾斜したエッジ像部分のどこにあるべきな
のかの判断には難しいものがある。
そこで、単純な対処法ではあるが、軸外においてメリディオナル方向に対称性を維持
したコマ収差の少ない光学系を用いる事が妥当である(アイソプラナティックである必要
は無い)。本来、光束を非常に絞った場合に結像位置を与える近軸主光線到着位置と、PSF
の照度重心が一致するからであり、その位置は画像から検出可能である。画像の2値価に
際して閾値の変化による重心移動も当然少なくなる。
2.エッジの強調
非光学的ではあるが、デジタルカメラ等の画像処理においては明暗部のエッジを検出
して、エッジの急峻度を増すような処理が行なわれる。これは画像のメリハリを向上させ
る効果を持つ。当然エッジスプレッドファンクションは立ち上がるわけであるから、部分
的に MTF は無理に向上させられることになる。
さて、高さ1のエッジを表わすエッジ関数と、エッジに水平な方向の線状の被写体の光学系に
よる結像の強度分布、LSF(ラインスプレッドファンクション)関数L(x)のコンボリューション積分により
ここでは上記面積
E
を得るための計算の都合上、エッジを表わす関数として、sgn(
)関数(シ
グナム関数)を用いる。この場合この関数は、
が正のとき+1を、負のとき-1 を採る関数であり、
=0のとき不連続となりエッジを形成する。コンボリューション積分を*で表現すれば、sgn
)をエ
ッジ関数
n
(
x
)としてエッジ像を表す関数
P
(
x
)は
P
(
x
)=
n
(
x
)*
L
(
x
)
この畳み込み積分の様子を図 2(a)に示す。
一般的には(1)式におけるコンボリューションの結果、
P
(
x
)は非対称な関数となる。エッジ像の
最大値の1/2の高さの所を、エッジ被写体の 1/2 の高さの位置に合わせて、像と被写体を重ねて
考えれば、
(x)は原点(0,0)を通過し、図 1、斜線の、sgn(
x
)と
P
(
x
)とに囲まれる面積が2
E
となる。
従って、積分の結果をxが負の領域でも正にして表現を簡便にするために n(x)を乗じて
  
dxxPxnxnE 2
1
ところで、コンボリューション定理により、フーリエ変換を
FT
[ ]として表わせば


xLFTxnFTxLxnFT
(3)
2関数のコンボリューション積分のフーリエ変換は、おのおのの関数のフーリエ変換の積となる性質
がある。
L
(
x
)のフーリエ変換は
x
方向への OTF であり 1)、それを空間周波数をνとして

v
と置き、





i
xFTxnFT 1
sgn 4
であるので、(1)式より



i
xPFT 5
さらに、フーリエ変換のパワー定理(Power Theorem)3)より、任意の2関数
について、これ
らの関数のフーリエ変換をそれぞれ
F
1
F
2とし、右肩に*で複素共役を表わすとすれば
 

dFFdxxfxf 2121 (6)
なる関係が成り立つ。よって、
n
(
x
)-
P
(
x
)は実数であるから形式的に複素共役としても結果に変わり
は無く、(2)式より
  


d
iii
dxxPxnxnE 
11
2 (7)
また、上述の通り、OTF の絶対値 MTF
R
ν、位相 PTF をφνとして

iR exp
sincos iRR
(8)
と表わせば、(7)式は


d
i
iRR
ii
Evv
sincos
11
2



d
RRi
i
sincos1
1

dR
i
dR
sin
1
cos1
11
2222 9

は実関数
L
(x)のフーリエ変換であり、その場合フーリエ変換の対称性から、フー
リエ変換結果はエルミート性 3)を持ち、それぞれνについての(8)式右辺の実数部は遇関数、虚数
部は奇関数となる。また、1/ν2は遇関数であり、(9)式右辺の第一の積分内の被積分関数は偶関
数、第二の積分内の被積分関数は奇関数と考える事が出来る。奇関数の-∞から∞までの積分は
0になり、偶関数は面積が直線ν=0に対し線対称に存在するので(9)式より

022 cos1
11
dPTFMTFE 0
となる。1,2)
この式からは、積分内に周波数の 2乗の逆数が含まれるので、レンズの高周波領域で
の性能のみならず、低周波域での MTF が大きな影響を持つことが分かる。また位相成分
PTF にも大きく結果が左右される。こうした内容を鑑み、検出も含めた画像処理の高効率
化の為には不鋭面積 Eの増大を抑える、諸制限の中で遣り繰る、ことの意識は肝要である。
ここで注意が必要なのは絶対値の MTF と違い、位相差 PTF は原点の取り方により値が変
化すると言う事である。(1)の計算結果は、理想的なエッジとエッジ像のそれぞれの中間
の高さが一致するように設定した場合のものである。原点を移動に際しては(1)式には若干
の補正が必要になる。
3.エッジの位置
ここで、エッジの位置の再現について考察すると 1)ここまでの考え方としては理想的
なエッジ像(近軸結像と考えても良い。に線像強度分布
L
(x)が畳み込まれてエッジ像が形
成されているとして、この
L
(x)と理想的エッジの位置関係が上記の通り、お互いの高さ中
心で一致していると置いている。ここで、 2の様な sgn 関数を用いてエッジを表現して、
(1)式の畳み込み積分を実行すると、図(a)の如くになり
軸の上部と下部で別々に畳み込
みをする形になる。畳み込み始めの
L
(x)
x
方向の位置を適当にとって全体
y
=1から 1
のエッジ像が原点を通過する様になっている。畳み込みが始まれば、
x
=0 における像の照度
h(0)は第 2象限に存在する
L
(x)の面積 Aに等しい。またエッジ下部の高さ h’(0)の絶対値は
3象限に存在する
L
(x)の面積 A’に等しい(図3)。この時、同じ
x
位置から
L
(x)の畳み込
み積分が始まれば、0から 2までの範囲のエッジによる単純な畳み込み結果(図2(b))と、
2(a)の全体の関数形状とは一致せねばならない。エッジが
y
=0 から 2の場合と
y
=0 から 1
までの場合においての相違は、高さ方向に畳み込み積分結果の図形が一様に伸ばされた違
いであるから、上部下部でそれぞれたたみ結果の関数は h(0)=0.5h’(0)-0.5 を通過する。
つまり A=Aであって、
L
(x)はこの場合、理想エッジによって面積を2等分される位置に置
かれていることになる。
L
(x)
方向について非対称であれば、実際には非対称性の収差に
より一般的にはこの原点で二つの関数は一致するとは限らない。しかし非対称性の収差が
補正されていれば、理想エッジと、畳み込み開始位置での
L
(x)の面積の 2等分線は一致し、
実際のエッジ像の高さの 1/2 のところで理想的な垂直エッジが交差する事になり、画像処理
においても、理想エッジのそのあるべき位置が明確になる。
4.参考文献
1) 牛山善太、草川徹:シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003)
2) 松居吉哉:結像性能評価のための OTF の取扱い、OPTICS DESIGN、No.5(1994)
3) 谷田貝豊彦:光とフーリエ変換(朝倉書店,東京,1992)