LED 照明系周辺の光学
散乱について考える。小さな物質に光が当たるとどうなるか
散乱とは一般的に、比較的均質な媒質中に、微粒子が存在し、それにより光波が素
の媒質中を進むときと比べ、特異な方向に広がり進むことを言う(図1)結局は電磁気学的
には回折理論、あるいは幾何光学理論でこれらの事象を解析することになる。ここではこ
の散乱現象について解説させていただきたい。照明系においては、特に光源の大きさの小
さい LED 照明系においては、均一な照度分布を得るために、また品位のある照明指向性を
得るために光を適切に拡散、或いは散乱させる種々の素子の活用も重要なポイントとなる。
1.一般的な均質媒質における光波の挙動
一般的な光学設計理論等においては、真空中、空気中、あるいはガラスなどの誘電体
が通過する媒質として考えられる。そしてその媒質中において散乱等は生起しないと仮定
される。空気、ガラスの中ではさまざまな物質分子が存在するのにもかかわらずである。
こうした媒質中に存在する特異な微粒子による拡散を考える場合には、まずこうしたバ
ックグラウンドとなる媒質そのものにおける光波の進行について再検討せねばならない。
微小粒子を含む様な、波長オーダーの物質の精密な構造を問題にする場合には、物質構
造は感受率、分極、延いては誘電率εの空間的な分布として表現され得る。本来は物質と
光の関係を計算するためには微視的な世界で、物質を構成する原子核、電子などの運動を
詳細に検討して、物質中でのミクロな領域での電流密度、或いは分極 Pを決定せねばなら
ない。しかし一般的な光学理論が構成されるマクロな世界では、原子レベルと比べ十分に
大きく、しかし波長と比べ十分に細かな適切な領域ごとの平均をとることにより感受率、
或いは分極を物質固有の定数として決めてしまい、そこからマクスウェル方程式の計算を
スタートする。
誘電体の場合のように、原子や電子が強く結びついている場合には、光波の通過によ
り、(つまり電場により)電荷(electoric charge)が勝手に自由に動くことは許されず、
電流は流れず、真の伝導電流、電荷が巨視的に0であっても、光波通過の影響で電荷が微
小にゆすられて、微視的な領域で正負の絶対値の等しい一対の電荷が、微小な距離離れて
電気双極子として存在して、そこに静電ポテンシャルが生じる。こうした電気双極子モー
メントの密度平均が分極 Pであり、媒質の屈折率を決める誘電率とは以下の通り密接な関
係がある。分極とは、誘電体中の負電荷と正電荷の位置が微妙にずれたものが分布した状
態を表している。
一般的な媒質中におけるマクスウェルの方程式は、媒質中の電荷密度をρ、媒質中に生
じる電流密度を jとして、電束密度 D磁束密度 B電場の強さ E磁場の強さ Hにより、
t
B
Erot
(1)
t
D
jHrot
(2)
Ddiv
(3)
0Bdiv
(4)
と表せる。この時、分極 P、磁化 M、真空中の誘電率、透磁率ε0、μ0を用いて、
PED
0
(5)
MHB
0
(6)
の関係がある。また一般的な仮定として、光波との相互作用として物質の線形応答を仮定
すれば、感受率 χe、磁化率 χm を用いて、
EP e
0
(7)
HM m
(8)
と表現できる。よって感受率と誘電率εの関係は、εrを比誘電率として、

EEED re
00
1 (9)

HHHB rm
00
1 (10)
と簡潔に表せる。誘電率、比誘電率等は以下の関係になっている。
0
r (11)
0
r (12)
また分極は総じて中性となる電荷分布の変化により発生する微視的な電流 j
t
P
J
ˆ (13)
なる関係にある。
さて、この様に原子レベルでは巨視的ではあっても波長オーダーの物質構造を考慮する
場合にはεの空間的分布、或いは巨視的な電流密度 jに対応する、電磁場の各成分に対して
異なる波動方程式を用いる、ベクトル的な取り扱いが必要となる。
2.電気双極子による光波の放射
光波の電場により電気双極子が生成され、さらに電荷が振動され電気双極子は電磁波を
放出する。この時の周波数は励起を行う光波のものと同じになる。既述の誘電体内におい
ても、真空中に希薄に分子が漂っている状態でもこの様な電気双極子放射は起きる。希薄
に存在する非常に小さな質点、分子レベルの大きさの粒子の散乱を考えることは、ここで
の電気双極子放射による散乱を考えることである。
電気双極子から十分に遠方なファーフィールドでは、電場は比較的簡単な数式で表す
ことが出来て、電気双極子モーメントを
tPtP
cos
0
(14)
と表すとし、P0は電荷の距離が最大になる t=0 の時の電気双極子モーメントを表す。
cを真空中の光速、kを波数 2π/λ、ω=ck を周波数、
r
を動径、θをその方位角として
r
krt
kP
E

cos
4
sin
0
2
0
(15)
と表される。強度で考えれば<>で時間平均操作を表すとして真空中では
2
0EcI
(16)
であるから参考文献4)P20

2
2
0
242
242
0
0
cos
16
sin
r
krt
c
P
cI
2
0
32
242
0
32
sin
rc
P
(17)
として周波数の4乗に比例する強度分布式が得られる参考文献 2),3)
3. 参考文献
1) M.Born&E.Wolf:光学の原理Ⅲ、第 7 版/草川徹訳(東海大学出版会、東京、2005)
2) E.Hecht:OPTICS 2ndedi(Addison-Wesley,Reading,1987)
3) 大津元一、田所利康:光学入門(朝倉書店、東京、2008)
4) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)