LED 照明ノーツ 13
明るい、ということについて
前回は測光量の単位についての一環として輝度、と言うものを取り上げ解説
させていただいた。今回も測光量についての話になるが、照明系においての“明
るい“という事はどういうことか、を考えつつ解説させていただきたい。また輝
度の不変性についても言及させていただきたい。
1. 明るさ、照度のアップ
照度Eと言うものは、単位面積にあたりに到達する光束を現す。被照明面上
の微小面積dSに到達する光束dFを考えれば、
dS
dF
E (w/m2) (1)
である。微小面積に単位時間当たりに到達するエネルギー、光束を、その微小面
積で割った量である。当然照度が高ければより多くのエネルギーがdSに到着し
ていることになり、明るいと言うことになるこの時、光はどの方向からdSに
到達しようと(1)式には無関係である。如何に多くのエネルギーがdSに到達す
るのか、のみが重要である。
従って、図1にある様に多くの光源を用いてdSに光を集めれば照度は上昇する。
光源を増やせば増やすほど、dS近辺は明るくなる。本来はレーザ光のような干
渉性の高い光波では単純に、単独の光源の dS に齎すエネルギーの合成和とは成
らないが、干渉性の低い一般的な照明系においては単純に単独の光源が寄与する
分だけ、照度が上がっていくと考えられる。
当たり前のようではあるが照明系設計においては重要な事柄である。もし
レンズの様なもので、光束を収斂させて重ね合わせれば、集光面積は小さくなり
(1)式が小さくなり、さらに照度は上がることになる。
また、図2に置ける様に、一点に向かい光を集めるのではなく単独の光源では照
度分布に均一性が足りないとすれば、光源による spot を並べ、照度の低い部分
を重ね合わせ、全体でより照度の平坦度の高い照明系も形成することが出来る。
2. 明るさ、輝度のアップ
話を図1に戻そう。確か dS にやってくる光は増え、照度は上がった。し
かし輝度として考えてみると如何であろうか?輝度の定義は、何度も出て来てい
るが、
(w/(sr・m2)) [candela/m2、nit] (2)
である。微小立体角dΩで割っているところが大きく照度と異なる。つまりdΩがどの方向
に向いているかで輝度Bは変化する。図1の場合にも、よく見てみるとそれぞれの光源から
の光はdS近辺でクロスしているが、あとは互いに異なる方向に無関係に過ぎ去っている。
従って、dSを新たな光源面(2次光源)と看做した場合には、特定の方向へ流れる光のエ
ネルギー量には変化が無く、輝度は変化していない。
この様に考えると光の合算により厳密に(最高に優れた測定器で測った場合に)輝度を
上げるためには、ことなる光源から出た光波を、まったく方向性が一致するように合流させ
ることが絶対的に必要になってくる。これは非常に困難なことである。ハーフミラーを介し
て光波を合流させる場合には、不要な反射、或いは透過成分が必ず発生し、一般的な干渉性
の低い光波同士では元のエネルギーを上回る合成エネルギーの流れを作ることは出来ない。
それでは、レンズで集光した場合はどうなるのであろうか?後述の図 3 についての解説
を参照頂きたいが、レンズで集光することは、光線の角度を変え、また光源と光源像の大き
さとの関係で、輝度はやはり変化しない。この様な輝度が一定に保たれると言う原則を輝度
不変則と呼ぶ。
輝度が高くなることを明るい、とするのであれば、この場合には明るくは成っていな
事になる。
3. 何を持って明るさを測るのか
これまでの議論は測光単位にもとづいて、照度、或いは輝度が上昇すること
が明るくなること、と考えた。つまりそこでの明るさはそれぞれの単位を測定で
きる測定器で測った明るさと考えても良い。しかし実際には測定器で良い値を得
るために照明系を組む人もいない。必ず、何かを照らそうとか、それを読み取ろ
うとか、明るい光を認識したいとかの具体的な目的がある。これ以上、明るさに
ついて考えるためにはこうした真の目的を熟慮せねばならない。
まず最も一般的な照明系の使い方としては、dS付近に被照明面が存在する
場合である。例えば読み取りたい原稿である。この原稿にどのくらいの光が到達
するのか、照度はどのくらいか、ということは読み取りのための明るさをダイレ
クトに反映する。勿論、前回触れさせていただいたように、その原稿面がどのよ
うな拡散性を持つかによって、その後の照明系としての性能は左右されるが、
りあえずは、この原稿面の照度が大きく、あるいは所望の分布に近いことが明る
く性能の良い照明系のためには重要である。
それでは輝度の明るさが反映する場合とはどんな場合であろうか?ある方
向に伝わるエネルギーが増える場合である。その方向に目や、CCD カメラなどが
あるとすれば簡単に考えられる。比較的小さな開口部を持つ、それら目や、CCD
カメラに多くのエネルギーが飛び込むためには、そこでは光線の指向性が重要と
なる訳であるから、輝度が大きな値を持つことは肝要と成る。
例えば、目に限ってしまえば、ある方向から見る人間の目により多くのエ
ネルギーが到達する場合が、より輝度の高い場合、と考えてよさそうである。
ところが、確かに輝度が増せば明るい像を我々は得られるのであろうが、
る光源を、距離が異なる位置から観察すれば、我々の瞳には異なる量のエネルギ
ーが飛び込んでくるはずであるこの量は、光源の大きさと、輝度と、距離、
して瞳の大きさにより決まり、輝度には変化は無く、この距離のみが変化すると
考えられる。この状態を図示したのが図 Xである。目を瞳面積 Aのレンズと網
膜上の像と言う構成で単純に考えている。Sと言う面積の光源が面積 Q像とし
て網膜に映っている。系 1においてはレンズを挟んだ界における輝度を B,B’
して、輝度の定義から
B・S・(A/L2=B’Q・(A/P2 (3)
B・(S/L2)=B’(Q/P2)
と、エネルギーは保存され、倍率関係からレンズから、物体、像までの距離と光源面積、像
面積の間に以下の式が成り立つ。
S : Q=L2 : P2
従って
Q/P2=S/L2 (4)
よって
B=B’ (5)
となり、レンズの前後で輝度は保存される。今度は系2について考えてみよう。
目に入ってくるエネルギーだけではなく、網膜上の照度について注目してみる。
同じ光源を系 1 M 倍の距離、ML の位置から観測するとする。確かに立体角
Ω
ΩA/(ML)2 (6)
と、1/M2になり、取り込めるエネルギーは減少してしまう。しかし結像倍率が
P/M P/ML
となり(L に比べてレンズから網膜までの 1、系 2 における距離の変化は、極
小さいと考えて)、系 2 における像面積 Qはこの値の2乗に比例するので
QQ/M2 (7)
となり、エネルギーが減少した分に比例して、像面積が小さくなる。従って、
度はこれらの値の商であるから、一定となる。2つの場合において変化はない。
つまり、輝度とは網膜上の光源像の照度(単位面積あたりに到達する光束)に比
例する量であった。
参考文献
1) 松居吉哉:設計法(共立出版、東京、1972)
2) :例で学ぶ光(森、東、2010)
3) 草川 徹シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003)