LED 照明ノーツ 31
レンズを使う 18
<光学補正式ズームの近軸計算>
はじめに
前回はズームレンズの基本的な原理と、簡単な近軸構造計算について解説させていた
だいた。前回考えたのは 4群アフォーカル系という言わばもっとも形式的に洗練し、古典
的に完成しているタイプである(決して最先端のズームタイプと言うことでは無いが)。今
回はこれとは逆に最も古い、原始的なズームタイプについて説明させていただきたい。また、
近軸計算の一応の締めくくりとして、その構造を近軸計算で考えさせて戴く。
1. 光学補正式ズームとは
1の様な光学系を考える。
1 光学補正式ズーム
焦点距離がそれぞれ、f1,f2そして f3である 123群として正、負、正のレンズが
あり、正の 1群と 3群が同じ動きをするとする。つまり、
f1
f2
f3
d1 d
2
移動量△
d
1 +
d
2
である。1,3 群が互いに一つの筒に内包され一緒に動くイメージである。中央の負群は固定
で有る。 1右端をフィルム等のある像面と考えれば、2群と像面は同じものに固定されて
いて、互いの距離が変化することは無い。1,3群のみを一体で動かして、変倍された像、
つまりレンズ系全体が異なる焦点距離になった場合の像が、はたして固定された像面上に
得られるのだろうか?これが可能であれば、非常に単純な構造でズームレンズが製造でき
ることになる。
さって、結果のみ先にお伝えすると、移動量を近軸計算し探していくと、図の如くに上
手く像面に焦点が一致する移動量△が存在する。3群の場合には3点ある[1]適当に各群の
焦点距離、初期間隔を決めた、薄肉系の近軸計算結果では
f1100 f2=20 f3=50mm
d1= 70.511 12.16 1.034mm
d2= 9.489 67.84 77.67mm の時
f= 486.92 33.7 24.38mm
として像面は一致する。これは結構素晴らしい結果である。この時、2群から像面までの距
離は 175mm と一定である。ズーミング時にはその他の点では焦点位置はずれていく。この
計算例でも tele 近傍では 150mm 近く変動してしまうが、36 から 24mm ではそれでも
0.5mm 程度のずれに留まる。Fナンバー5.6 では、錯乱円直径は 0.1mm 程度には収まる。
より適切な設定を検討し、焦点距離の変倍も考えれば用途によれば利用が出来る。こうした
単純な光学系の動きによるズームを光学補正式ズームレンズと呼ぶ。図 1にある光学系の
原型は R.H.R.Cuvillier による PanCinor(パンシノール)1949[2]である。他にもいろ
いろな形の光学補正式が存在する[2][3]実際には画質、ズーム倍率、コンパクト性など
観点から、カムなどの機構でダイナミックに、且つ精細に焦点を形成し続けていく機械補正
式ズームレンズが主流となって行く。ただ、PanCinor 的な考え方は、本稿で登場する高倍
率ズームレンズの構造を検討する上でも重要であり、また画像処理、AF 機構、様々な駆動
機構の進化した現代では無視できない手法かもしれない。
2. 光学補正式ズームの焦点距離とバックフォーカスの計算
ここではもう少し解析的に考えてみよう。 2にある様に考える。基本的には図 1の光
学系と同じであるが群それぞれ焦点距離、そして焦点位置、それらの要素同士の間隔を
2に表示してある。
ここで、また本連載 17 (1)から(3)式、
iiiiii
uNuN
11 171
11 -
iii
du
h172
ただし、
i
ii
ir
NN
1
173
を参照する訳であるが、まず、各群の屈折力パワーφ、そして間隔 dは以下のとおりであ
る。
群番号 1 2 3
φ 1/fa 1/fb 1/fc
d fa+fb-X fb+fcS
また、初期条件は h1=1u1=0 であって、上の 3式より光線高さ h、各面通過後の屈折角
u’は順次、
Bf
X
fa
fb
fb
fc
S
fa
fb
fc
image
2 光学補正式ズームの近軸計算
a
f
uu
1
1111
(1)
1112 udhh
a
b
a
ba
f
fX
f
Xff
1
)(1
(2)
2222
uu
ba
ba
b
a
ff
X
ff
fX
f
11
(3)
2223 udhh
ba
cb ff
XSXff
2
(4)
3333
uu
cba
b
cba
cb
ba
fff
XSf
fff
XSXff
ff
X
2
21
(5)
従って、トータルの焦点距離 f
XSf
fff
f
b
cba
2 (6)
バックフォーカス Bf
XSf
Xf
f
fhBf
b
c
c
2
2
3
(7)
と表される。第 1群の焦点位置には勿論影響を受けるが、第 1群の焦点距離自体にはバッ
クフォーカスは影響を受けないことが分かる。
7. 参考文献
[1]R.Kingslake:Lens Dsign Fundamentals(AcademicPress,SanDiego,1978),p66.
[2]ルドルフ・キングスレーク(雄倉保行訳):写真レンズの歴史(朝日ソノラマ、東京、1999),p168
[3]中村荘一:”ズームレンズの歴史と収差補正“,OPTICS DESIGN,NO.23(2001),p.3