LED 照明ノーツ 37
レンズを使う 24
<フェルマーの原理と屈折則>
光線の進行経路を決めるフェルマーの原理について説明させて戴く。幾何光学におい
ては光線の進行の仕方を定める非常に大切な原理である。
1.フェルマーの原理
幾何光学の重要な法則にフェルマーの原理が有る。その内容は、
光線は、最短の時間で達する経路、一番早く到着する経路(正確には極致)を通る。レンズ
で像が結んでいるような特別な場合を除き、その経路(光路と言う)は屈折率境界の形状と
2点A,Bの位置が決まれば、一つしかない。つまり境界面への入射点 Pはただ一つに決ま
る。
1 フェルマーの原理
というのものである。当然、屈折率が一定の媒質中で有れば最短経路をとって直進すること
になる。光線の自由空間中の経路を定め、屈折率の異なる媒質境界面では光が屈折すること
も表せる幾何光学においては非常に大切な原理である。
屈折率が媒質中で分布している場合には図 2にある様に、短い光路の部分ごとに距離
屈折率 1 屈折率 2
A
B
P
と屈折率を掛け合わせ、足し合わせた合計の結果(積分)の値が極致と成る(一般的には最
小)光路を光線は通過する。
2 屈折率分布媒質におけるフェルマーの原理と光路長
ここで、 屈折率と(経路の)長さを掛け合わせている意味はこうである。
光学ガラスなどの透明な媒質は光学計算等においては一般的に屈折率によってその存
特性を表現される。屈折率とは文字通り光の曲がる割合を表すのであるが、物理的には
真空中と、其の媒質内での光りの速度の比の逆数をあらわしている。屈折率 1.5 の媒質にお
いては真空中に比べ、光の速度は 1/1.5 になる。つまり同じ距離の通過時間は 1.5 倍にな
る。従って距離と媒質の屈折率を乗じて比較すれば、P点からQ点までの光の到達時間が計
算できることになる。屈折率の変化が不連続な場合にも図 3 にある様に最短時間経路を光
りは通過する。この様子は海でおぼれている人間を助ける際に、多めに陸を走って(泳ぐの
より速ければ)、泳ぐ距離を縮めた方が到達時間は結局短縮出るのと似ている。直線上で進
むことが必ずしも最短時間とはならない。
P
Q
ds
m
r
3 屈折率の不連続面での屈折
2. 屈折率の表示
物理的には屈折率とは真空においての速度との比較で表現される。波長が変われば同
じ媒質でも屈折率は変化する。ところが我々が実際に光学設計に用いる硝子データにおけ
る屈折率は空気中との比較のものである。ここには注意が必要である。この様な値を用いる
のは多くの光学機器が空気中で使用されているからである。もし真空中の屈折率データを
用いるのであれば、光学設計に際し、いちいち空気中との比較のものに変換せねばならない。
しかし比較する空気の温度により屈折率は変化することになるので物理的には真空換算の
方が理窟がとおる。いずれにしても、一般の硝子データを用いて真空中で使用される光学系
を設計する場合には、真空の屈折率は 0.9997 程度の値を採用しなければならない。光学ガ
ラスの一般的なd線における屈折率立公差は±0.0005 であるから、屈折率 1.0000 との誤差
は公差レベルに達する。
3. フェルマーの原理から考える光線の屈折
ここで図 4にあるように、
a,b,c
を定める。又、光線と境界面の交点をPとするとき、(
q
,0,
z
)
が境界面上、つまり XZ平面上に存在すると考える。このPを境界面上で動かすことによ
り、AからBを結ぶ、可能な限りの経路を仮定することができる。上述のフェルマーの原理
の定義により境界面への入射点は、光路長が極致と成る一点に定まるはずである。
4 屈折則を導く。P の位置
ここでAからBに至る光路長
L
は、簡単な幾何により以下の如く表される。
L
[AP][PB]
nz q a nz cq b
1
222
2
222
()
さらに、極致の位置を得るために上式を Pの位置の変化を表す成分、
zq
でそれぞれ微分
すれば、
A
B
y
x
z
P
g
h
0
a
b
c
dL
dz
nz
zqa
nz
zcqb
 
1
222
2
222
()
(1)
dL
dq
nq
zqa
ncq
zcqb
 

1
222
2
222
()
(2)
となる。フェルマーの原理より実際の経路に沿った光路長
L
は極値をとらねばならないの
で、AP 間、PB 間の距離をそれぞれ
g、h
と置くとき、 Pの位置の微小変化 dzdq に対
する光路長の変化 dL はゼロであるべきで、(1),(2)式より以下の関係が満たされなければな
らない。
dL
dz zn
g
n
h

120 (3)
dL
dq
nq
g
nc q
h

12 0
()
(4)
n1n2
h
は常に正なので、3式より、
z
=0、つまり境界面上の点 Pは点A、Bを
含む平面上にのみ存在を許されることになる。ここで、 Pを境界面、XY平面の交線上
にとり、新しく点P(
x
,0,0)とすれば、4)式は
nx
g
nc x
h
12
()
よって、角度θ、θ を図 5の様に設定して
sinsin 21 nn 5
この(5)式はスネルの屈折式に他ならない。
5 屈折則を導く。角度の定義
A
B
P
θ
θ’
x
y
z
0
4. 参考文献
[1] E.Hecht:Optics,2nd Edition
(Addison-Wesley Publishing Company,Reading,Mass.,1987)
[2]久保田広:応用光学(岩波書店、東京、1980
[3]早水良定:光機器の光学Ⅰ(日本オプトメカトロニクス協会、東京、1995)
[4]牛山善太・草川徹:シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003