光学設計ノーツ
光学設計ノーツ 13 (ver.1.0)
波面収差について 1
点光源から射出した多数の光線がどうしても像面上で再び点として集まらず、ある面積の範囲に散
らばり存在する現象が一般的な光学系において起こる。これら、散らばりを収差と呼び、光学系を設
計する際には、必ず考慮せねばならない量であり、また、この収差量を、光学的要素の適切な設定
より、光学系の使用目的に応じた程度に押え込むことは光学設計者の重要な仕事の一つである。
収差というものは、多数の光線追跡の結果などからすると、一見、捉えどころの無い、無秩序なも
のの様に感じられるが、様々な基本的なタイプに分類・整理され、それらの性質が検討されていて、
そこから生み出される理論は、光学系の設計、製作、そして利用に際して非常に重要な役割を果たし
ている。本稿ではこの様な収差論の基本と成る、また、幾何光学とより精密な波動光学的評価を結び
付け、その基礎となる波面収差について述べさせて頂く。
1. 波面収差の定義
点光源から光線が出発し、光学系を通過し結像が起きている場合を考えよう。光学系に入射する
光線は、上記波面の定義からすると、物界で球面状の波面を形成しつつ光学系に入射し、もし無収
差の幾何光学的理想結像が起きているとすれば、光学系を射出し、理想像点に向かう光線も理想像
点を中心とする球面状の波面を形成するはずである。この波面は理想像点からの等位相面として、
像点から等しい距離を保ちつつ、一点に収束して行く(1)
光学系を光線が通過する事により収差が発生するとすれば、一点から射出した光線は一点に収
束せず、理想像点の近傍を通過することになる。波面の接平面にそれぞれの光線は直交するわけで
無収差の光学系による波面
あるから、この場合、光学系射出後の波面は無収差の場合と異なり、変形し球面状にならない。この
理想状態の波面形状からの、各光線に沿っての波面の偏差を波面収差と呼ぶ。
また、見方を変えれば、光学系により波面の歪みが生じ、その結果、波面に直交する光線が一点
に収束しなくなると考える事も出きる。像面上、これら光線の到着点の理想像点からの偏差を光線収
差と呼ぶ。スポット・ダイヤグラム、或いは実際の写真画像等におけるレンズ系による画像の乱れは、
幾何光学的には光線収差そのものである。
ここで、波面収差量と光線収差量の関係を具体的に考えてみよう。
回転対称性を持った、共軸光学系を考え図 2にある様に諸元を設定する。
物体面上の点光源を P(
x, y
)、像面上の Pの理想像点を P’0(
x’
0
, y’
0)として、光学系を入射瞳平面、
射出瞳平面で代表させるPからの任意の射出光が入射瞳、射出瞳上のそれぞれ、QEQ’Eなる点
を通過して像面上の P’0と異なる点P’(
x’, y’
)を通過するとすれば、P’0P’の距離が光線収差を表わす。
OE,O’Eを両瞳の中心、光軸との交点とすれば、O’EP’0は光学系の開口絞りを極限まで絞った場合の
光学系射出後の理想的な主光線を表わす。また、理想像点を中心とした点 O’Eを含む球面を、この
場合の基準と成る、理想的な球面状の波面、参照球面と考える。この時、O’EP’の距離、参照球面半
径を
R
と置く。また、参照球面と射出光線 Q’EP’との交点を像面座標上で Q’(
u
’,υ’,
w
’)とし、また、O’E
を含む実際の収差を持った波面を考え、射出光線との交点を Q’とする。一般的に波面収差∆
W
は実
光線上に沿って測った参照球面と実波面の光路差として定義される。しかしその測り方については実
は以下の2種類の考え方が存在する。
a)
一般的に多くの場合、波面収差
W
Q’Q’間の光路長として定義される。上述の一般的な定
波面収差の定義
義である。
像面上の強度分布を求める為に回折積分を行なう時、任意の面での振幅と位相の分布が分か
れば回折計算は可能であるから、その積分が参照球面上で行なわれるとすれば、実際の光線通過
経路に沿って実波面からその光線が参照球面に到達するまでの光路差を得ることは、妥当なやり
である。
その光路長差を知る事により参照球面上におけるその光線通過位置での実際の位相が正確に
計算できるからである。こうした回折計算を行う場合には、大抵、参照球面までの光線追跡が行われ
そこまでの光路長が計算されることとなるので、計算或いは理論展開における実用性を考慮した定義
である。
b)
より形式的に考えて、回折積分が等位相面である実波面上で行なわれるとする時、この場合
は回折積分に際し実波面上の点 Qから観測位置 P’0(回折強度分布を計算する像面上における位
置)までの距離が重要になる。実波面上に2次波源が存在し、そこからの総ての2次波の影響によっ
て測定点における振幅を得ようとすることがホイヘンスの原理を基とする回折計算の理屈であるが、こ
の考へ方における波面収差とは QP’0方向に定義されるべきである。より一般的に表現すれば、波
面上の点と測定点を結ぶ線分に沿った∆
W
‘を採用する、と言う事である
この線分の参照球面から P’0までの距離は参照球面半径として一定であるから形式的にはこの
線分に沿った実波面から参照球面までの距離が重要になる。この距離を波面収差とする考え方であ
る。
また、実際の波面測定結果などで波面収差の量を示す場合には理想的波面中心へ向けての光
路長差として示される事が一般的である。
前者の計算手法に後者の波面収差量を用いれば位相が可笑しな値になって結果が狂う。また
逆に後者の考え方においては実波面上の点 Qの座標を求める事が最重要になり、波面収差分もここ
に含まれてしまうが、前者の波面収差量の定義を混同して用いる事は、少なくともそれらの誤差の検
討無くしては、筋が通らない。
原理的には明快なのであるが、上記b)の定義においては、光線に沿わない∆
W
の計算を総て
の光線に対して実行することは、不規則な 3次元的な波面形状をコンピュータ内で構成することにも
なり、非常に煩雑な作業になる。妥当な計算誤差の内に収まるのであれば∆
W
を波面収差として常に
採用する方がより実際的であって、参照球面中心方向に測った距離を、この Q’を通過し P’へと向かう
光線に沿った距離に置き換えて、一般的には、波面収差は定義される。勿論、そこには上述のように
理論的な根拠が存在するわけであるが。
それでは、ここで、これら二つの定義の違いにより生ずる誤差について考えてみよう。(主に参考
文献1)に拠る。)
3にある様に、この時、∠P’Q’P’0の大きさをαとすればP’0は参照球面中心であり、線分
Q’P’0 Tにおける参照球面接平面に対する法線であるので、
2
22 sin
11cos R
TQ
RTQTQTQTQE
αを微小角度と考え、cosαの 2次近似まで採ると、
2
1cos
2
さらに最右項は 1次近似をして(1)式は
R
TQ
TQTQTQE 2
sin
2
11
222
波面収差の定義による誤差の検討
よって、微小量α、Q’T の組み合わせによる4次以上の量に成る項を除き、
2
2
TQE
2
また、P’0,P’間の距離、光線横収差量をεとすれば、αは適当な、参照球面半径
R
程度の距離
R
εによって、
g
R
として表せる。よって(1)式は、
2
2
2g
R
TQE
ここで、我々は光線収差εを微小な量、波面収差をさらに微小な量と考えているので(4)式は非
常に高次の微小量を表す。
Rg
=50mm、光線収差量 P’0P=0.3mm、波面収差 QT 15λ(波長)程度のかなり大きな収差を
持つ光学系においても、Δ
E
は10-4から10-3λ程度のオーダーとなり、一般的な範囲での波動光
学的評価においては差し支えの無い誤差である事が分かる。
参考文献
1) 草川 徹:レンズ設計者のための波面光学(東海大学出版、東京、1976)
2) 久保田広:光学(岩波書店、東京、1981)
3) 早水良定:光機器の光学(日本オプトメカトロニクス協会,1995)
4) W.T.Welford:Aberration Of Optical Systems (AdamHilger,Bristol,1986)
5) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)