光学設計ノーツ
光学設計ノーツ 14 (ver.1.0)
波面収差について2
前回に引き続き波面収差についての基本的な考え方について述べさせて頂く。なお、式、図番号
は前回からの通し番号とする。
2. 参照球面の取り方による波面収差の変化
ここで、参照球面の曲率半径の取り方によって、波面収差量がどの様に変化するか考えて
みよう。図4において、P’0は理想像点、S は理想像点を中心とする半径rの参照球面である。
P’0の共役物点から射出して参照球面上の点 T を通過する光線の像面上の通過点を P’、
光軸上の通過点を E とし、P’,P’0の距離、つまり横収差量をεとする。さらに、光線と光軸
の為す角度をθ、線分 TP’0と光線の為す角度をαとし、P’0から光線に下した垂線の交点を
B とする。また、像界の屈折率は簡便のため 1 とする。ここで、T から P’までの距離、
図4 参照球面から像点までの光路長
つまり光線に沿った、参照球面から収差を持った像点までの距離、を
と置けば、
r
x
sin
cos
sincos
rx (5)
となる。さらに、ここで図 5 にある様に、参照球面 S S’に、曲率半径が L 増して変化した
とする。
A,A’はそれぞれの参照球面に光軸上で接する実波面である。光線は A’,S’,A 上のそれぞれ
Q’’、T’’、Q’点を通過する。従って、Q’T の距離 W、 Q’’T’’の距離 W’は参照球
面が S の場合、S’の場合の光線に沿って測った波面収差量と言う事になる。ここで、T’’か
P’までの距離を x’と置けば、それぞれ実波面上の点 Q’’Q’の距離は L に等しいので
xWWLx
よって
xxWLW
(5)式より
xrWLW
sincos
図5 参照球面半径の変化による波面収差の変化
さらに(5)式の場合と同様に考えて
sincossincos
LrrWLW

coscoscos1 rLWW (6)
となり、この式が波面収差の変化量を表す。
参照球面半径が大きくなればα>α’なので、(6)式右辺第 3 項は-r を最小とする負の
値をとる。また、rが大きくなれば、αとα’の差が小さくなり絶対値は小さくなる。さらに
第2項について cos 2 次近似を行なえば
2
2
L
となる。この項も L の増大に対して(1/L とαは比例関係にあると看做せる様になるので、
減少していく項である。
ここで、前回(2)式
2
2
TQE
(2)
を考えれば、この式における Q’T W’を代入すれば(αも上記のα’に置き換えられる)
参照球面半径を大きくしていった場合の、前回における2つの波面収差の定義の誤差△E を検
討することが出来る。そして、ここまでの考察により(2)式において L の増加に伴い、αは減
少し、Q’T は増大しないので、参照球面半径を大きくすれば△E は減少する事が分かる。
さらに参照球面半径を無限大にすれば cosα’=1 であり(6)式は
)1cos
rWW 7
或いは
)1cos
rWW (8)
となる。
3. 波面収差の計算方法
一般的に、コンピュータ上では波面収差は実際には光線追跡を行い、その光線が、無収差
の点、一般的には絞りの中心を通過する主光線の像面到達点を中心とする、任意の半径の参照
球面に達するまでの光路長を得ることにより計算される。参照球面曲率中心を通過する主光線
に沿って光路長が基準となり、その値との差が波面収差となる。
この計算手法とは別に以下のやり方も可能である。
6 にあるのは図 5 と同じ光線、P-Q-Q’-T-P’-E である。実波面、参照球面 A,S も同様であ
る。B も同様に P’0から下した光線への垂線の交点である。ここで、波面収差 W は[]が光路長
を表すとして、

0
POPOBPTQPQW
(9)
として計算することが出来る。以下に、この値がこれまで考えてきた波面収差 Q’T の値の近
似になっていることを示す。
ここで、像界でその光路が光線 Q’TB と平行になっているような無収差の理想的光線
P-K-T’-P’0を補助的に考える。この場合当然、

00 PTPKPOPO
(10)
である。ここでの実光線は収差を伴っているので、線分 BP’0 は平面波の一部を形成している
わけでは無い。光路長が一致しているのは、

TPKQPQ
の部分においてである。ここで、Q’、T’に於いてそれぞれ接する、波面、参照球面への接平
面を考えると、これら2平面に囲まれた領域では、或いはそれ以降も2つの光路は並行であっ
図6 波面収差の計算方法
て、もし図7における誤差δが無視できれば(9)式に含まれる光路差は[Q’T]と一致する。
さてここで、この誤差δについて検討してみれば、やはり図7より
cosrr
(11)
となり、(8)式の二つの波面収差の差の部分と一致する。つまり(9)式の波面収差の計算手法は
参照球面が無限遠にあるとした場合のものであることが分かる。
参考文献
1) 草川 徹:レンズ設計者のための波面光学(東海大学出版、東京、1976)
2) 渋谷眞人・大木裕史:回折と結像の光学(朝倉書店、東京、2005)
3) 辻内順平:光学概論Ⅰ(朝倉書店、東京、1979)
4) 早水良定:光機器の光学(日本オプトメカトロニクス協会,1995)
5) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)
図7 波面収差の計算における誤差