光学設計ノーツ
光学設計ノーツ 15 (ver.1.0)
波面収差と光線収差
今回も波面収差に関連する内容であるが、より具体的に波面収差と、実際に写真画面上に現われる光
線収差(横収差)との関連について述べさせていただきたい。収差論において収差を解析する場合、像
面上の幾何光学的照度分布を考える場合にも基本となる理論を提供する部分である。全体的な流れとし
ては本連載 13 回に直接繋がる。最初の図は13回 2図と同一のものである。
1. 波面収差と光線収差
これまで(本連載 13,14 回において)波面収差の定義については検討してきたが、本連載13回図2
において、ここでは波面収差
W
Q’Q’間の光路長として定義する。
さて、参照球面の方程式より(w’は像面座標上の値である。)

22
2
0
2
0Rwyxu
(1)
であり、w’u’,υの関数として表わせるので、波面収差を、点 Pの座標が決まっていれば、
W
(
u,v
)なる
本連載13回、図 波面収差の定義
関数として考える事が出来る。光路長を大括弧で表わせば波面収差は、ここでは、実光線に沿った

QPQPuW
0
,
(2)
である(参照球面中心方向に沿って計った波面収差との誤差検討については、本連載 13,14 回参照)。
QとOEとは実在の同波面上に存在するので

E
OPQP
(3)
よって(2)式は、

E
OPQPuW
0
,
よって、アイコナールで(4)式を表現すると、OE、Oの距離を D として


DLuwuLuW ,0,0,,,,
(5)
ここで、波面収差
W
を瞳座標
u’
で微分すると、これは微小な
u’
の変位に対する
W
の変化の総量を表
わすので、当然基準の
L
(0,0,
D
)は変化せず
u
w
w
L
u
L
u
L
u
W
この場合、u’の微小変化により v’も変化しないので、
u
w
w
L
u
L
(6)
となる。
さらに、ここで、以下のベクトル
w
LL
u
L
L,,grad
(7)
を考えれば、これは
L
const.の等位相面、つまり波面の法線ベクトルであり、また、その大きさは本連載
12回()(6)式アイコナール方程式より、像界の媒質の屈折率
n
である。
Q’0の位置に到達した場合を考えると、(7)式のベクトルの方向は光線 Q’P’と一致し、
ベクトルの大きさ
n’
、そして3つの方向余弦成分の2乗の和が1に成ることを考えれば、Q’P’の長さを
R’
として

2
222 0Rwvyux
であるから、アイコナール方程式を鑑みて
R
ux
u
L
n
1 8
R
w
w
L
n
1 9
1)式を変形して

2
0
2
0
2xuyRw
(10)
よって、
w’
u’
で微分して
w
xu
u
w
0 (11
(6)式に(8)(9)(11)式を代入して

R
nxx
u
W
0 (12
ここで
0
xxx
(13)
なる量を考えれば、これは光線収差の
x
成分に他ならず、(12)式より
u
W
n
R
x
(14)
まったく同様にして、
成分についても、
W
n
R
y (15)
として光線収差を求めることが出来る。光線横収差は波面収差の量そのものによるのでは無く、光路長差
の変化の割合、つまり波面の傾きに依存している事が分かる。光線とは波面に直交するものであるから、
任意の位置での光線方向は波面の接平面の法線方向により定まるので、当然ではある。例えば図 1の球
面収差を示す結像系は、参照球面と同心的な接平面を持つ波面を部分的に持ち、理想像点に到達する
周辺光線を持つ(図2)。物点を出発し、近軸像点を通過するこの光線には横収差は無い。しかし明らか
にその光路長は主光線のものとは一致していない(後述(19)式からも明らかである。)。
さて、(14)(15)式は正確な波面収差による光線収差の表示であるが、その中に
R’
という光線収差
に直接依存する量を含む。もし、
R,R’
等の長さに比べ、光線収差量が十分に小さいと見なすことが可能
であれば
R
R
と近似して、(14)(15)式は
u
W
n
R
x
(16)
1 球面収差図(縦収差) 図2 波面収差と横収差
W
n
R
y (17)
とすることができ、これらの式を用いて、波面収差から光線収差を求めることが可能になる。
また、波面収差
W
の全微分は
d
W
ud
u
W
dW (18)
(18)式に(16)(17)式を代入し、W(0,0)=0 なので、

00
,yd
R
n
uxd
R
n
uW u (19)
この(19)式により、光線収差から波面収差を得ることが出来る。
参考文献
1) M.Born & E.Wolf :Principles of Optics,7th edition
(草川徹訳:光学の原理(東海大学出版会、2005)
2) 草川 徹:レンズ設計者のための波面光学(東海大学出版、東京、1976)
3) 牛山善太、草川徹:シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003)