光学設計ノーツ 21(ver.1.0)
フェルマーの原理から得られること
フェルマーの原理はこれまでにも触れてきたが、輝度不変則をフェルマーの原理に
端を発する解析力学的な手法で証明することも出来る。今回はその内容について触れさせ
て頂く。屈折率が巨視的に分布している媒質においてのより汎用的な光線追跡のための微
分方程式も輝度不変則を考えている、その極近くから得られる。
1.
Etendue
の導出
フェルマーの原理を変分の記号δを用いて表せば、
n
を媒質の屈折率として
0
B
A
ndsL
(1)
となる。(1)式は両端 A,B を固定して考えた場合、実際の光路はその光路長
が停留値をと
る様な経路となることを表す。ある光路を微小に変化させたとき、光路長
の変化量が光
路の微小変化量の2次以上のオーダーであれば、光路の変分は0 )0(
L
になり、光路長
は停留値をとるとされる。
ここで、(1)式を3成分に分けて、
ds
を以下の様に成分によって表記すると
 
B
A
dzdydxzyxnzyxL 0,,,, 222
(2)
さらに、ここで(3)式最右辺にあるような微分の表記法を用いて

dxzy
dx
dz
dx
dy
dxds
11 22
22
(3)
とおけるので、便宜的に

1,,,,,, 22 zyzyxnzyzyxN
(4)
として、(1)(2)式は
NdxL
(5)
と表せる。
ところで、アイコナール方程式より導出される光線進行の経路を定める光線方程式(上
記、フェルマーの原理から直接導くことも本連載第 12 回に示したように可能である。
n
ds
rd
n
ds
dgrad
(6)
を成分表示すれば、
0
ds
dx
n
ds
d
x
n (7-1)
0
ds
dy
n
ds
d
y
n (7-2)
0
ds
dz
n
ds
d
z
n (7-3)
である。ここで、(7-2)式に(3)式を代入すれば
 
0
11 2222
zydx
dy
n
zydx
d
y
n
 
0
1
122
22
zy
n
dx
dy
dx
d
zyn
y

0
1
22
zy
yn
dx
d
y
N


01 2
1
22
zyyn
dx
d
y
N
従って
0
y
N
dx
d
y
N
(8-1)
同様にして(7-3)式についても
0
z
N
dx
d
z
N
(8-2)
となる。この(8)式は
を時間軸とし、
zyzyxN
,,,, をラグラジアンとしたときのオイラー
の方程式に他ならない。となれば、運動方程式における運動量にあたる量(一般化運動量)

cos
1
22 n
ds
dy
n
zy
yn
y
N
py
(9)

cos
1
22 n
zy
zn
z
N
pz
と光線の方向余弦と屈折率の積(光学的方向余弦)として定義でき、ハミルトニアンは
NzpypppzyxH zyzy
,,,, (10)
と、表現し得る。従って、正準方程式により成立する、解析力学におけるリューヴィルの
定理が適用でき、座標
zy ppzy ,,, で決まる位相空間内の4つの点が、
x
の変化と共にその
座標を変化させようとも、この4点で決まる位相空間内の微小な体積に対して
.constdpdydzdp zy
(11)
なる関係が成立する。
ここで、光線進行方向を
x
軸となす角度θと
y-z
平面内に投影される方位角ψで表すとす
れば(9)式は
cossinnpy
sinsinnpz
(12)
と置き換えられる。ここで、微小な一般化運動量の変化を、微小な極座標の変化に積分変
数変換すれば

dd
pp
dpdp zy
zy ,
,
dd
p
p
p
pz
y
z
y
ddn cossin
2
θ、ψにより表現される微小な立体角
dΩ
を考えれば
dn
cos
2 (13)
また、
dydz
は微小な面積
dS
とおけるので
.cos
2constddSn
(14)
と出来る。この保存される量を etendue と呼ぶ。この量に輝度(放射密度)
を乗ずれば、
全放射束に屈折率が乗ぜられた値が得られる。エネルギー保存則から、媒質によるエネル
ギーの吸収、反射等が無ければ、同一媒質中の輝度は不変であることが分かる。
2.リューヴィルの定理について
上記の導出の重要な場面に登場したリューヴィルの定理 3)4)について、ここで少し説
明させていただこう。簡便のため
と一般化運動量
p
により形成される 2次元平面内(位
相空間)で考えよう。A点の座標を(
y,p
)とし、
x
が変化しそれに従い A点が移動する(A’
点へ)と考える。そのときの
方向の移動量Δyは正準方程式 3)4)より
p
H
x
y
(15)
であるから
x
p
H
y
y
(16)
さてここで A点近傍の
座標にのみ相違のある点 B
y
+
dy
p
)を考えれば、この場合の
xの変化に起因する
座標の変化を△y’とすれば(B’点へ移動)
x
p
H
y
dyy
xdy
yp
H
p
H
xdy
p
H
yp
H
yy
2
(17)
従って B’A’点の
方向の距離
Dy
x
p
H
dyxdy
yp
H
p
H
D
yy
y
2
dyxdy
yp
H
2
(18)
となる。同様にP方向に点 ADA近傍の
方向に離れた点)の点 A’D’への移動量、
れぞれ△p、△p’を考えれば、D’A’点の
p
方向の距離
Dp
dpxdp
yp
H
Dp
2
(19)
と出来る。この直行する方向の 2辺の積が表す面積は
xdpdy
yp
H
xdpdy
yp
H
dydpDD py
2
2
2
2
2 (20)
ここでの右辺第 2,3 項は高次の微小量であり、これらを無視すれば
dydpDD py (21)
となる。この面積は
変化以前の元々の辺 AB AD により形成される面積に等しい。
これまでの etendue 導出の際に行われた如くの、微小量を前提とした近似はここで行われ
ている。
3.参考文献
1) 宮本健郎:光学入門(岩波書店、東京、1995)p.58
2) M.Born & E.Wolf :Principles of Optics,7th edi.(Pergamon Press,Oxford,1999)
草川徹訳:光学の原理・第 7 版(東海大学出版会,2005)
3) 原島鮮:力学Ⅱ(裳華房、東京、1973)
4) 都筑卓司:なっとくする解析力学(講談社、東京、2005)
5) 牛山善太、草川徹:シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003)