光学設計ノーツ 28(ver.1.0)
結像光学系によるフラウンホーファー回折像
この様な領域で観察される回折は通常、フラウンホーファー回折領域のものであ
ることが前回(本連載第 27 回)の議論からも分かる。ところが、比較的大きな
開口を考えると、例えば
D
=1 の場合、
2000mm となる。つまり2mである。
これはかなり長い距離であるが、
D
=mm のさらに大きい開口を考えれば、限
界は
Z
=50m というとんでもない距離になる。大きな開口によるフラウンホーフ
ァー回折像の観察は通常の研究室では不可能であるということになる。しかしこ
の困難をレンズを用いて乗り切ることが出来る。ここでは、少し詳しくこのレン
ズの作用について考えてみよう。当然、光学設計を前提にする場合には波動光学
中でも重要な検討である。
1. レンズの機能と回折像について
ここで、光学レンズの結像作用における機能について考えさせて頂く。波面
的には、1にある様に点光源の幾何光学的に無収差の結像を光学系が齎してい
る場合には、物界における点光源から生じる球面波を、像界において一点を中心
とする収束球面波に変換する機能をレンズは果たしていると考えることができ
る。(今回は軸上結像について考える。)
そこで、前回(連載第 27 )の発散球面波上ではなく、一点に収束する球面
波上での2次波源の影響の任意の観測点 Pにおける重ね合わせによる、フレネル
ーキルヒホッフの回折積分式の適用について考えてみる。
2の様に考える。諸元については前回の図 1のものと同じである。すると
この場合にも、波面法線ベクトル
n
と入射光線ベクトル
r
との角度は 0と看做せ
 

d
s
iks
r
ikriA
PU 
cos1
expexp
2 (1)
となる。さらに、波面中心近傍の検討を行うとすれば、前回とまったく同様に考
えて、波面法線ベクトル
n
と射出光線ベクトル
s
との関係において cosχ→1
出来、波面上の積分範囲の形状も含めた、振幅分布、位相分布を表す、所謂、
関数、
r
ikr
Ayxg exp
),( 00 -(2)
を導入して、(1)式をスリット面
x
0-
y
0系)上(
x
-
y
系)
軸を共通と
直交座標系上に書き換えさらに(1)式は
 

0000
exp
,, dydx
s
iks
yxg
i
yxU
-(3)
となる。
ここで、(3)式中における、距離sについて解けば、 2より明らかな様に、
また、連載前回と同様に、

2
0
2
0
2
0yyxxzzs -(4)
となる。連載前回においては観測距離zが瞳径 Dと比較して十分大きな場合の
回折現象を扱うために z0の大きさを無視したが、今回は Fナンバーの明るい結
像系による回折像の扱いを可能とするためにもこの値は無視できない。その様に
考えて、さらに図 2より
2
0
2
0
22
0
)( yxzzz
であるので、

2
0
2
0
2
0
2
0
2yyxxyxzs (5)
22
00
222 yxyyxxz
2
1
2
22
00 22
1
z
yxyyxx
z
となる。ここで、右辺括弧内第 2項の 2次の項までで近似展開すれば
3
222
00
22
00
8
)22(
2
22
z
yxyyxx
z
yxyyxx
zs
3
222
0000
22
8
)22(
2
z
yxyyxx
z
yyxx
z
yx
z
(6)
となる。ここで、右辺第 4項(T4)を取り上げて考えると、
3
222
00
48
)22(
z
yxyyxx
T
3
2
00
8
)}2()2({
z
yyyxxx
3
00
3
2
0
2
3
2
0
2
4
22
8
)2(
8
)2(
z
yyxxxy
z
yyy
z
xxx
(7)
が双方同程度の値になる時には、この(7)式右辺の 3つの項はそれぞれ、
同程度の次数の誤差を表していると考えられる。従って第一項を代表にして誤差
の程度△について考えれば、
x
0zと比べて同程度に大きく、
x
0>>
である時が
誤差の大きい場合であるから、誤差の検証としては、
3
2
0
2
8
)2(
z
xx
3
2
0
2
2
z
xx
2
0
2
2
z
x
z
x
(8)
と考えることが出来よう。
ここで、焦点距離 f=zと置いて、光学系の Fナンバーを考えると
0
2x
z
F (9)
であるから(8)式は
2
2
4
1
2F
z
x
(10)
例えば、
に比べ
x
0に有効な大きさを考え、Fナンバーを 0.7 とし、
z
=5mm
とする。そしてλ=0.0006mm とした場合の、フラウンホーファー回折像のエア
リーディスク半径 6)P138ωの倍の距離を
と置けば、
mm001025.02F22.12
x
となり、これらの値を用いて(10)式を計算すると
-8
2
2
104.5
1
8
F
z
x
(11)
となり T4 は十分小さな検証範囲で計算を適用する限り、無視できると考えられ
よう。(ただし、仮に検証距離が 15/100mm を超えるとすると誤差は波長の数%
に達する。)
さて、T4 項を無視した上で(6)式を(3)式に代入し、(3)式積分内で敏感な影響
を与えない exp 外の sをzととして積分の外に出すと、
 
00
00
00
22
exp,
2
exp, dydx
z
yyxx
ikyxg
z
yx
zik
z
i
yxU

(12)
が得られる。これは前回に求めたフラウンホーファー回折近似式そのものである。
無収差の光学系によりフラウンホーファー回折像が得られることが分かる。
と言うことは前回におけるような空間周波数領域における変数の取り方を変え
れば、
z
x
x
z
y
y -(13)
レンズによる軸上点光源の無収差回折像は一般的に言って、以下の如くに瞳関数
のフーリエ変換で得られることになる。




000000
22
2exp,
2
exp, dydxyxiyxg
z
yx
zik
z
i
Uyxyx
(14)
2. 参考文献
1) M.Born & E.Wolf : 光学の原理Ⅰ、 7草川徹訳(東海大学出版会,2005)
2) 辻内順平:光学概論Ⅱ(朝倉書店、東京、1979)
鶴田匡夫:応用光学Ⅰ培風館、東京、1990)
4) 谷田貝豊彦:光とフーリエ変換(朝倉書店、東京、1992)
5) J.W.Goodman:Introduction to Fourier Optics 2nd.edi.
(McGraw-Hill,NewYork,1996)
6) 牛山善太波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)