光学設計ノーツ 42 ver.1.01
結像における余弦則により正弦条件を求める
本連載 17 回よりクラウジウスの関係から、輝度不変則を導き、さらに正弦条件を導出し
た。また 18 回においては共役関係にない二つの微小光斑の間でのストローベルの定理を導
出し、エタンデューと呼ばれる量が得られた。
また 19 回では輝度不変則によらずに、17,18 回とは異なる考え方で正弦条件を導いた。
今回はこの、19 回での手法を再び取り上げ、そこに含まれていた結像における余弦則とい
うものをクローズアップし、輝度不変則、正弦条件、ハーシェルの条件等について改めて考
えを廻らせたい。
1. 結像における余弦則
基本的は 19 1節における導出と同じであるが、軸外に範囲を一般化し、角度の取り方
等も変えて、異なった表示方法を試みる。
1において、Aの像 A’が収差無く結像していて、そこから微小距離
dr
離れた物点 P
P’にも同様の無収差の結像が起きているとする。まず、Aから A’に到達する光線を考え
る。また同様に Pを出発して P’に到達する光線を考える。両点において無収差結像が起こ
っているとすれば、こうした光線は無数にあるが、光線 AAが線分 AP(つまり物体面を表
す)となす角度をφとする。また光線 PP’も物界では線分 AP に対し同じ角度φで Pを出発
しているとする。また像界では光線 AAは像平面の一部、線分 A’P(長さ dr)に対して
φ‘の角度を為して存在するとする。
さて、この時、AP の長さが微小であって光線 PP’A’Pに対して同じように角度φ'をな
していると仮定しよう。すると、二つの光線の光路長を考えれば図から明らかな様に、

coscos ndrAArdnPP

coscos ndrrdnAAPP
(1)
となる。
P
n
n’
ここで、A’においてのみならず、P’においても収差は存在しないわけであるから、射出の
角度φが変化しても(1式における両光線の光路長は一定なはずである。従って、こうし
た条件下では(1)式右辺が定数となり、
Cndrrdn
coscos C’は定数) 2
ここで、
dr
rd
3
は、微小な線分同士の結像横倍率を表すとして、(2)式は
Cnn
coscos Cは定数) 4
と表せる。この(4式を結像における余弦則cosine rouleと呼ぶ。像面上ある一点
で収差が補正されているとき、その近傍の点でも収差が補正されている光学系においては
4)式の関係が常に成立しているはずである。
さて、ここで、検討すべきは像界で 2光線が平行になっていると看做してよいかどうか
である。実はこれと同様の検討は本連載 18 回で行っていて、ここに少し説明のしかたを変
えて表現させて戴こう。ここでは図 2にある様に、線分 AP に直交する軸から計った光線の
角度 α、及び、αを採用している。
もし、像界で 2光線が平行にならないとすれば、どこかで 2光線が交わることになる。
そこで、Pから、この交点までの距離を
R
とすれば、(図 3参照)
(C'A')実距離
(5)

22 sincos
rdRrdR
計算して、整理すると、
(5.5)
A
A
P
P’
dr
dr
n n’
図2
角度
α
を採用
C’
dr’
C’
A’
22
2
cos
2
sin
rdRrdRPC

2
2
sin2
1R
rd
R
rd
RRPC
R
は、微小量
dr
dr
と比べて非常に大きな値となれば、根号内小括弧内の第 2項は 4
以上の微小量として無視できる。また、同第 1項も 2次以上の微小量であるから、一次近
似の公式を用いて、
sinrd (6)
或いは、図1の様に角度φを用いれば
(7)
従って、上記(2)(4)式が成立することになる。
物界から平行に入射した 2光線は幾何光学的には、焦平面上で交わるはずである。例え
ば軸上の場合、この近軸焦平面から実際の像平面までの距離を Rとすれば近軸理論的には
2)
fn
dr
R
rd
8
であって、
dr
が焦点距離 fに比して十分微小であれば、一般的に(8)式の左辺は 2次以上の
微小量を表す。よって(5.5)式から右辺根号内最後の項が無視でき、(7)式余弦則が成立す
R
rd
RRPC
sin2
2
1
1
cosrdPC
る。
2. 正弦条件
さて、上記のように角度について ααを用いれば、(4)式は
Cnn
sinsin 9
である。ここで、Aが線分 AP に直交する光軸上にあり、光軸方向に光線が進むとすれば、
(9)式の左辺の両項は0であり、この場合 C=0 であることが分かる。その状況も(9)式によっ
て表現され得なければならない。従って
sinsin nn
sin
sin
n
n10
であり、これまで、導出した正弦条件である。
3. ハーシェルの条件
正弦条件は像面上の点像の広がりにおいて定義されたが、図 4にある様に、光軸上に沿
った点像の存在に対しても同様の無収差条件を考えることが出来る。つまり、ある軸上像点
において無収差の場合、そこから光軸上の、微小な距離はなれた像点が収差無く結像するた
めの条件である。
dz
'
α
α
n n'
余弦則は既述と同様に考えて、2光線が平行であるとみなせれば、
Cndzzdn
coscos (11)
とできる。光軸に沿った光線を考えれば、
Cndzzdn
(12)
であることが分かる。従って、
ndzzdnndzzdn
coscos

1cos1cos
ndzzdn
22
2
sin
2
sin
ndzzdn (13)
ここで縦倍率、
dz
zd
(14)
を導入すれば、
2
2
sin
2
sin
n
n
(15)
となる。これがハーシェル(Herchel)の条件である。近軸領域では2)
2
n
n (16)
なので、
2
2
2
sin
2
sin
n
n
(17)
となり、α=±αの時以外は正弦条件との両立はしない。
5 ハーシェルの条件と結像状態
このことは、ある倍率(設計倍率)で無収差でピントが合っているとし、そこから撮影距
離が微小に異なる倍率に合焦点させた場合には、結像性能は低下することを表している。
A A' P
P' dz
dz' n
4. 参考文献
1) 鶴田匡夫:第 7・光の鉛筆 (新技術コミュニケーションズ、東京、2006
2) 松居吉哉:レンズ設計法(共立出版、東京、1972
3) 牛山善太、草川徹:シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003
4) A.Walther: The Ray and Wave Theory of Lenses
(Cambridge University Press,Cambridge,1995)