aver.1.0)
波面収差から得られる幾何光学的照度分布
波面収差と光線収差の関係を表わす式を用いれば、光束の集光密度を計算し、
波面収差から像面上の照度分布を求めることが可能であり、任意の次数の、任意
の収差の存在する場合の照度分布を得ることができる。
ここで得られる数式は、多数の光線を追跡して得られるスポットダイヤグ
ラムの様な計算機実験的な結果からではなく、幾何光学的強度の法則に基づく解
析的な強度・照度分布を直接表わす。例えば Seidel の特定の3次、あるいは5
次の収差を持つ光学系における理論的な幾何光学的照度分布を検討することに
より(全ての幾何光学的収差が混在してしまうスポットダイヤグラムによる評
価とは異なり、注目する収差のみの純粋な影響を取り出すことが出来る)これ
らの収差固有の照度分布パターンを、また、幾何光学理論の限界などについて考
察することも可能である。
幾何光学においては、波面収差などの収差関数から像面上の幾何光学的な照
度分布を求め得る、後述させて頂く式は非常に重要な意味を持つ。
1. 幾何光学的照度分布
本連載15回“波面収差と光線収差”において述べさせて頂いた通り、
収差
W
と光線収差
Δx、Δy
の関係は、瞳上の光線通過座標を(
u’
,υ’)、参照
球面の半径を
R
,像界の屈折率を1とすれば
u
W
Rx
W
Ry
であった。
ここで、瞳面上に図1にある様な、頂点 A,B,C,D つ矩形状の微小面積
dS
を考えよう。各点の座標を以下の通り定める。
A(
u’
)
B(
u’
, υ’+
d
υ’)
C(
u’
+
du’
, υ’+
d
υ’)
D(
u’
+
du’
, υ’)
すると、これら4点を通過した光線による、これら瞳上の4点に対応する像面上
の4点を A’,B’,C’,D’とし、像面上、無収差で A 点の像が存在すべき点を
標原点にとれば、明らかに(1)式より、A’点の座標は
W
u
W
R,:A (2)
である。
また、D点の
x
座標について考えると、それは瞳面上の
u’
の変化に対す
る、像面上での
x
方向の変化の感度に、実際の瞳面上での微小移動量
du
が掛
け合わされた量(
du’
に起因する像面上の変化量)と、(2)式における
x
座標が
足されたものになるので
u
W
Rud
u
W
R
u
xD
となる。
また、
方向については、
u’
の変化に対する
方向の変化の感度に
du
掛けたものに(2)式の
座標を加えれば良いので
W
Rud
W
R
u
yD
よって、D’の座標は
ud
u
WW
ud
u
W
u
W
R
2
2
2
,:D
であり、同様に考えて B’についても
d
WW
d
u
W
u
W
R2
22
,:B
となる。
また、C’の座標については像面上
x、
両成分にそれぞれ、
du’、dυ’
の両変化の影響が現われるので
d
W
ud
u
WW
d
u
W
ud
u
W
u
W
R2
222
2
2
,:C (5)
である。
さて、ここで図 2 にある様に矩形の4頂点の座標を定める時、
A' (a , b)
B’(c , d)
C’(e , f)
D(g , h)
図形の面積
dS’

dfcebdcabhagSd
2
1
2
1
2
1

aehdhfeg 2
1
よって、(2)-(5)式(6)に代入し(Rを左辺に移しているが)、
W
ud
u
WW
u
W
ud
u
W
u
W
Sd
R
2
2
2
22
11
WWW
u
W
u
W
u
W
2
22
2
1
u
W
u
W
u
W
ud
u
W
u
W22
2
2
2
1
2
2
2
22 WWW
ud
u
WW
u
W
u
u
W
u
W
ud
u
W
u
W2
2
2
2
2
2
1
u
u
WWW
ud
u
WW
2
2
22
u
u
WWWW
2
2
2
u
W
u
W
ud
u
W
u
W
2
2
2
単純に整理していくと、
d
W
d
u
W
ud
u
W
ud
u
W
Sd
R2
222
2
2
2
1
d
u
W
ud
u
W
ud
u
W
d
W2
2
22
2
2
従って、
dud
u
WW
u
W
RSd
2
2
2
2
2
2
2
となる。(7)式右辺中括弧内は、(1)式慮した場合の関数行列式(ヤコビアン)
である。像面上の光線通過域 dS’を
dxdySd
と表せば、
dud
dxdy
dS
Sd
と考えられて、また
2
2
2
2
2
2
u
WW
u
W
dud
dxdy
である。
さらに、瞳上面積
dS
を通過するエネルギーを、
I
p
dS
で表わせば(図3)像面上、
面積
d
S’における照度を
I
g
として、幾何光学的強度の法則P15 より
pg I
S
d
dS
I
よって、(7)式他より
1
2
2
2
2
2
2
2
u
WW
u
W
R
I
Ip
g
が得られる。この(9)式が波面収差
W
から像面上の幾何光学的照度分布を表わ
す式となる。波面収差
W
には本連載前回における Seidel 収差の様な解析的
な既知の(或いは任意な)値を用いることも出来る。
(7.5)式で表される、瞳と像面において対応する光線通過微小面積の
比を、多数の光線追跡により表す手法がスポットダイヤグラムと考えることも
出来る。
2. 参考文献
1) :レンズ光、東、1988)
2) 草川 徹:設計者の波面光学(東海大学出版、東京、1976
3) :応(岩、東、1980)
4) :光Ⅰ(朝、東、1979)
5) :レンズ設(共、東、1972)
6) 牛山善太、草川 徹シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003
7) :幾(森、東、1984)