光学設計ノーツ
光学設計ノーツ (ver.1.0)
ホログラフィの記録・再生について
今日、所謂古典的な技術である光学設計の分野においても回折現象を積極的に利用し
た回折光学素子(DOE)の存在を意識し、その性質をある程度理解せざるを得ない時代にな
ってきている。入門的な意味でその特徴を理解するためには干渉を利用した回折光学素子
としてのホログラムの記録、再生の過程を理解することは有用かと思われる。今回はこの
様な内容について触れさせていただこう。
1. ホログラフィの記録・再生の原理
1にある様に物体(被写体)面 Oからフレネル回折された波面(物体波)を写真フ
ィルムなどの記録媒体 Hに記録する場合を考えよう。
H面上、物体波の複素振幅分布を

yxiyxgyxg ,exp,,
-1
としよう。
-y
直交座標系をH面上に想定する。ここには、特定の照明波面により照明さ
れ、被写体を経てH面を通過する、被写体の光学的な3次元的な情報全てが存在する。こ
れをもし直接記録すると、強度を記録することになり、位相情報は失われてしまう。位相
情報が失われれば、その残りの強度情報からは、H面以降における、光波の進行を知覚す
ることが出来ない。
そこで図 2の様な、
軸に対しθ傾いた、O面を照らしたものと同一光源からの平面
波(参照波)を考えると、H面上の Q(
x
,0)における位相は乾板原点 M(0,0)に対して、
sinsin
2kxQMk
QK
-(2)
と考えられるので、参照波は

sinexp, ikxRyxr -(3)
と表せる。これを物体波に重ね合わせて記録すると、強度分布は今度は
 
2
,,, yxryxgyxI

sin,exp,, 22 kxyxiRyxgRyxg
sin,exp, kxyxiRyxg

sin,cos,2, 22 kxyxRyxgRyxg - (4)
と記録されることになる。(4)第3項に物体波の位相情報が存在している。この様に参照
波を用いて物体波の複素振幅分布を記録する技術をホログラフィ(holography)そして、
の複素振幅分布の感光材料記録をホログラム(hologram)と呼ぶ。ホログラム上の振幅透
過率分布
t
(
x,y
)は一般的な露光量の範囲では
yxIttyxT ,),( 10
-(5)
従って

sinexp,exp,,, 1
2
1
2
10 ikxyxiRyxgtRtyxgttyxT
sinexp,exp,
1ikxyxiRyxgt -(6)
となる。(6)式は様々なホログラムのパフォーマンスを考える上で基本となる重要な式であ
る。なお、
0
t
1は乾板の特性、露光条件、現象条件等によって決まる定数である 1),2)
さて、(5)式に(6)式を代入し、ビームスプリッターなどを用いて記録したときとまった
く同じ参照波、再生光でこのホログラムを照射したとすると、再生波
r
(x,y)に、強度分布を
記録したホログラムによる振幅透過率フィルターが掛かることになり、透過光とフィルタ
ーの積を考えることにより以下の様な光波が発生する。
 
sinexp,,, 2
1
2
10 ikxRRtyxgttyxryxT

yxiRyxgt ,exp, 2
1

sin2exp,exp, 2
1kxiyxiRyxgt -(7)
(7)式右辺第1項は(3)式の参照波と振幅係数以外は同じ光波を表している。つまり、参照波
と光の進行方向には変化がなく、また、被写体の位相情報は失われているので、ホログラ
フィにおいては大きな意味を持たない。これを0次回折光と呼ぶ。
重要なのは第2項以降である。(1)式から明らかなように、物体波に、参照波の振幅、
転写条件の定数項が掛かっただけで、物体波そのものが再生されている。この光波+1次
光)は実際に物体からの光波が窓 Hを通過する時と強度比例定数項以外はまったく同じな
ので、上述のホログラフィ行程を経ることにより、物体が存在しなくとも、Hを覗き込む
と、あたかも物体が存在するように再生像(虚像)を観察することが出来る。つまり3次
元像の記録が可能になる。
そして、(7)式3項について考えてみると、この場合も物体波の位相情報は含まれてい
るが、(35)式から分かる様に、
方向について 2
kx
sinθで表される位相差が加えられる事
になり、+1 次光と比べ、参照光の2倍の角度分、異なった方向に光波が伝播していること
が理解できる。さらに、オリジナルの位相項φにおけるマイナスの符号について考察すれ
ば、物体面が多数の点光源より形成されていて、物体の一点から H に達する波面は球面波
になっていると考えられるので、物体波を多数の球面波に分解すれば、φの内容をより具
体的に記して

mm
m
mr
krti
uyxg
exp
, -(8)
として表され得る。
はこの場合、点光源から観測点までの距離である。よって(7)式3項
φ()を含む項の様に複素共役の場合には

mm
m
mr
rkti
uyxg
exp
, -(9)
となり、波数kは光波の進行方向を表すので、光波の進行方向を表す z軸の方向が逆転した
世界となる。その世界では元の物体波と同じ複素振幅を持つので、+1次回折光とは、H
に対して面対称な鏡像的な光路が形成されて光波は再生光の進行方向と逆向きに広がって
行く(図 3点線の光路。2θの方向の違いを無視して図示)。ところが、時間
にも負符号
がつくので、更に時間が逆転し+1次回折光と Hに対してこの光路の同じ側に光波は進行
し、物体の実像を形成する(図3実線の光路)。これを-1次回折光による共役像と呼ぶ。
この共役像は実像であり、共役点に置いた写真乾板等に物体像を記録することが出来る(図
4)
2. 結像作用を持つホログラム
ここで、物体面上の点光源を考えるとそこからのフレネル回折光の複素振幅分布は以
下の如くに表せる3)P270
 
z
yx
ikyxgyxg 2
exp,,
22
-(10)
従って、ここでは角度θ=0 方向からの参照平面波を考えるとホログラムの振幅分布は
  
z
yx
ikRyxgtRtyxgttyxT 2
exp,,,
22
1
2
1
2
10


z
yx
ikRyxgt 2
exp,
22
1 -(11)
実数に戻して表現すれば
  
z
yx
kRyxgtRtyxgttyxT 2
cos,,,
22
1
2
1
2
10 -(12)
このホログラムにθ=0 の再生光を照射すれば、振幅定数項を定数にまとめてしまえば、

AyxryxT
,,
z
yx
ikB 2
exp
22
z
yx
ikB 2
exp
22
-(13)
となる。上式右辺第 1項は再生光と同じ方向に進む平行光束を、第2項は全くフレネル回
折式と同じ式であり、ホログラム通過後、あたかもホログラム記録に用いた元の点光源か
らやって来た様に振舞う光波(虚像形成)を、そして第 3項はホログラムを挟んでz軸方
向に逆さのパフォーマンスをする、つまり収束しつつ光源の実像を形成する光波(実像形
成)を表している(図5)
ここで、再生光の角度のみθが値をもつとすれば(13)式は

sinexp,, ikxAyxryxT

sinexp
2
exp
22 ikx
z
yx
ikB

sinexp
2
exp
22 ikx
z
yx
ikB
-(14)
となり、再生光の方向に沿って、所謂軸外に上記ホログラムの両側で虚像と実像が形成さ
れることになる。
参考文献
1) 辻内順平:ホログラフィー((裳華房、東京、1997)
2) 石黒浩三:光学(共立出版、東京、1953)
3) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005