光学設計ノーツ 55(ver.1.0)
平面波合成表現における伝達関数とエバネッセント波
本連載前回は、回折などの波動現象を考慮して、収差を持つレンズ等により構成され
る光学系の性能評価を行わなければ成らない様な場合に、有力な計算手段を提供する、電
場の平面波合成による表現について解説させていただいた。今回はその様な光波の表現手
段から現れる伝達関数(ATF)、そしてエバネッセント波(Evanescent wave)について触れ
させて戴きたい。
1.周波数の限界と伝達関数
本連載前回第 54 回において、複素電場を構成する多くの平面波の伝播により光波の伝
播を表す時、平面波の進行方向を表す方向余弦がα、βの素平面波の位置
z
における振幅
A
( )は、
)1(
2
exp,;, 22
zgzA 54-12
が得られた。関数
()は任意であり、初期条件と考えられるので
z
=0 におけるスペクト
ルを用いて、
)1(
2
exp0;,;, 22
zAzA 54-13
と表すことが出来た。
上式右辺、exp 項内において 1>α2+β2の場合、(54-13)式における様に関数g()
を決めたので光波は
z
=0 から
z
>0に向かうと考へられて、根号は+が選択され、さらに根
号内から
i
が出され、以下の様に表現出来る。
22
1
2
exp0;,;,
i
zAzA 54-14
また、この 1>α2+β2の場合、前回(6)式
yx ff ,
54-6)
)
1
(2
222
zyx fff
から
1
22
2 yx ff
となり、少なくとも上式を成立させるためには、片方の座標成分について波長と周波数の
間の関係において、
x
f
1
(16)
が満たされなければならない。もともと、前回(7)式


dxdyyfxfizyxuzffA yxyx
2exp;,;, (54-7)
は振幅分布に含まれる周波数ごとのスペクトルを表わしているので、(16)式は
u
に含まれ得る最小の構造を表わしている。つまり、使用されている波長より細かい周期構
造を一般の結像光学系は解像することは出来ない。
また、
A
(
Z
)
A
(0)の比をとって、
H
( )とすれば、

22
2
1
2exp0;,;,, yxyxyxyx ffizffAzffAffH
(17)
(ただし 1>α2+β2
となる。これは任意の周波数における入力面と像面における振幅の比を表わす伝達関数
(transfer function)であり、記述の OTF(正確には ATF)である。
2.エバネッセント波
もし、1<α2+β2であれば、これらの値について方向余弦以外の解釈が必要にな
る。この場合の解は(54-13)式より、
1
2
exp0;,;, 22
zAzA (18)
となる。位相項根号内は正の実数であり、根号を+にとると位置
の増加に伴い振幅は無限
大に発散する事が考えられる。これは物理的に意味を持たないので根号は負が選択される。
今度はこの光波の
A
(
z
)
の増加に伴い急激に減衰することが分かる。この波を全反射の
際に発生する5)P45、12)P55 のと同様のエバネッセント波Evanescent waveと呼ぶ。
般的な光学系の検討に於いては
は数波長よりも大きい値となるので、この成分を除外し
て考えて良い。しかしエバネッセント波は以下の重要な性質を持っている。
1 全反射におけるエバネッセント波
上記(16)式と同様の検討に於いて、波長 λ より小さい構造が存在する場合には
1
22
2 yx ff
となり、エバネッセント波の存在が考えられることになる。このエバネッセント波を
z
=0
面の極近傍(波長程度)で検知することにより、波長より細かい構造を観察することが出
来る。
また、(18)式から、実際の平面波の式を考えれば、
rkiAu
exp (54-2)
なので、
1
2
exp2exp0;, 22
zyxiAU (19)
最初の exp の項は、z軸方向に傾きを持たない等位相面による平面波形成を表現する。と
ころが、振幅
U
を一定にするためには
が一定でなければならない。従って、等位相と等
振幅が平面波上で両立しない。この様な波を不均質な波inhomogeneous waveと呼ぶ。
等位相面と等振幅面が一致する、54-14 )式で表わされる一般的な波は均質な波
homogeneous wave)と呼ばれる。
3. 参考文献
1) 飯塚啓吾:光工学(共立出版、東京、1983)
2) 石黒浩三:光学(共立出版、東京、1953)
3) 大頭仁、高木康博:基礎光学(コロナ社、東京、2000)
4) 大津元一:現代光科学Ⅰ(朝倉書店、東京、1994)
5) 霜田光一:レーザー物理入門(岩波書店、東京、1995)
6) 三好旦六:光・電磁波論(培風館、東京、1995)
7) M.Born & E.Wolf :Principles of Optics,7th edition(Pergamon Press,
Oxford,1993)/草川徹訳:光学の原理(東海大学出版会,2005)
8) ヤリーブ:光エレクトロニクス基礎編(多田邦夫、神谷武志監訳)
(丸善、東京、2002)
9) J.W.Goodman:Introduction to Fourier Optics 2nd.edi.
(McGraw-Hill,NewYork,1996)
10)R.Guenther:OPTICS(John Wiley & Sons,1990,New York)
11)E.Hecht:OPTICS
2nd.edi.(ADDISON-WESLEY,Reading,1987)
12)牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)