光学設計ノーツ
光学設計ノーツ (ver.1.0)
ホログラフィと正弦波振幅格子
前回と同様に今回も、回折光学素子(DOE)を理解する上での基本としてホログラムを
考える。今回はそのホログラムにシンプルではあるが具体的な形として正弦波形状を与え
て考えてみよう。回折格子や、複素電場を考える場合に有用な平面波角度スペクトル表示
法の理解にも繋がる。
1. 正弦波振幅格子
1にある様な振幅透過率が正弦波的に
x
方向のみにおいて変化する縞模様を考える。
(光軸はz方向とする。)この様な構造は、本連載第一回において扱った異なる進行方向を
持つ同じ波長の二つの平面波の干渉を任意の平面上で記録する事(つまりホログラムを製
作する事)によっても得ることが出来る。
さて、最大値を1として振幅透過率を、格子の周期を
p
として以下の如くに表そう。

p
x
yxg 0
00 2cos1
2
1
,
-(1)
(1)式の複素表示を行なえば、

p
ikx
p
ikxyxg
0000 exp
4
1
2
1
exp
4
1
, -(2)
と出来る。
ここで、再生光としての入射波の振幅を
U
0(
x,y
)とすれば透過後の振幅
U
0(
x,y
)は、
射波と(2)式の透過率分布の積で表せて、

0,,
000
yxU
 
p
ikxyxUyxU
p
ikxyxU
00000000000 exp0,,
4
1
0,,
2
1
exp0,,
4
1
-(3)
となる。(3)式第2項は振幅が 1/2 になりそのまま入射波が進行して行くことを表わしてい
る。ここで注目されるのは、それ以外の対称形の2項に存在する。そこで、第1項をあら
ためて、

p
ikxyxUyxU
000000
0
1exp0,,
4
1
0,, -(4)
と書き出す。格子面で分けられる2つの界の屈折率を
n,n
として、入射波が平面波である
とすれば(
L,M,N
)を方向余弦として、
000000 exp0,, NzMyLxinkyxU
-(5)
と表わせて、(5)式を(4)式に代入すると、

00000 exp
4
1
0,, nMyx
p
nLikyxU
-(6)
となる。(6)式は進行方向の異なる、新しい平面波、
000000 exp0,, zNyMxLkniyxU
-(7)
を表わすと考える事が出来る。但し、(6)式より
p
nLLn
-(8)
回折格子構造が存在する成分とは直交する、構造が無い方向へは
nMMn
-(9)
である。この場合の方向余弦 cos は、格子面と直交するz軸に対して計られる入射角度、
出角度の sin と等しくなり(図 2(9)式は、
yy nn 0
sinsin
-(10)
となり、スネルの法則を表し、
n
=
n
’=1 の時(8)式は
p
xx
0
sinsin -(11)
となって、所謂、回折格子の式参考文献1)P83,),5)P149 と等価となる。また、第3項からは同
様に、
p
xx
0
sinsin -(12)
となる。
結局、再生光としての平面波がこの正弦波格子ホログラムに入射した場合、半分の振
幅の平面波がそのまま透過し、(11)式、(12)式で進行方向が決められる 1/4 の振幅の平面波、
計3種類の平面波が発生することが分かる。
2. 平面波角度スペクトルによる表現
任意の平面上の電場の複素振幅分布をフーリエ変換することにより、様々な方向に伝
播する様々な振幅を持った平面波の合成として、その複素電場を表現できる。この様に複
素振幅分布を表現する事を平面波角度スペクトル表示参考文献 4、5 P191 と呼ぶ。この場合には
3式に平面波式5式を代入しフーリエ変換される初期複素振幅分布z=0が表され
る。従って、(6)式におけるように其のうちの 1項のみ考えるとして、平面波角度スペクト
ル分布
A
()は以下のフーリエ変換として表される。ここでは簡便のため
n
=
n
1とした。

dxdyy
M
x
L
ix
P
iMyLxi
ML
A

2exp
2
exp
4
12
exp0,,
dxdyy
M
x
L
i
M
yi
P
L
xi

2exp2exp
1
2exp
4
1
dyy
M
i
M
yidxx
L
i
P
L
xi
2exp2exp2exp
1
2exp
4
1
MM
P
LL 1
4
1 -(13)
上式、デルタ関数で表される方向に 1/4 の振幅の平面波が伝播する事になる。この時、(13)
式より
MM
P
LL
,
となり、(8)(9)式と一致する。
格子の他の2項についても同様に考える事が出来る。
参考文献
1) 辻内順平:光学概論Ⅱ(朝倉書店、東京、1979)
2) 永田浩:回折格子光工学ハンドブック(朝倉書店、東京、1986)
3) J.GaskillLinear Systems, Fourier Transforms, and Optics
(JOHN WILEY & SONS,New York, 1978)
4) J.W.Goodman:Introduction to Fourier Optics 2nd.edi.
(McGraw-Hill,NewYork,1996)
5) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005