光学設計ノーツ 75
アイコナール方程式の導出について
はじめに
前回は光線の構造を検討することから経てアイコナール方程式を導いた。今回はさら
に話を進めさせて戴きたい。アイコナールとは実距離に屈折率を乗じた光路長の事である
が、フェルマーの原理に基づき、こうしたアイコナールの変化の仕方を定式化することは光
学系の解析には非常に重要で、有用である。
1. 結像の余弦則からアイコナール方程式を導く
前回光学設計ノーツ第74回において、光線の方向を表す単位ベクトルを
,
として,
方向余弦をL,M,NL’,M,Nとし,微小な変化 rd
dx, dy, dz
, rd
dx’, dy’, dz’
とした場合,内積を用い,本連載第73回(4)式、

sinsin'' ndrdrnAABB
(73-4)
が導けた。補足説明させていただけば、物体と像の距離、角度α、α‘以外は微小量の前
提があるので近軸理論内で扱ってよいのであるが、像界での2光線の為す角度については
無視できるかどうかの検討はやや込みいる(図 1。そこで偽経路 BPQB’を設定してこの
光路長と、真光線 BB の光路長の差が 2次以上の微小量になると言うフェルマーの原理を
直接用いて

'' APQABPQBAABB

AQAPQBBP
' (73-2)
とシンプルに表現できた。あとは近軸領域内での処理で(73-)式が導けたわけである。
1 アイコナール差を求めるための図
さて、73-4)に於ける左辺の光路長(アイコナール)の差を
dV
= [BB’] [AA’]として,
(73-4)式を 3次元に拡張した。光線の方向を表す単位ベクトルを
S
線状の物体を立体的に
ベクトル
で表わせば、
2
(1)
なので、
cos''cos srnsrndV
2

'' srnsrn
従って成分で内積を表現すれば、

'''''' dzNdyMdxLnNdzMdyLdxndV
(7418)
が得られる。そしてこの式を各成分毎に微分して、
nN
z
V
nM
y
V
nL
x
V
,,
(74-19)
Nn
z
V
Mn
y
V
Ln
x
V
,,
と出来きた。
さらに、それぞれを 2乗して物界と像界ごとに加えれば、
2
2
2
2
n
z
V
y
V
x
V
(7420)
2
2
2
2
n
z
V
y
V
x
V
(74-21)
として、アイコナール方程式と呼ばれるものが得られる。
ところで、改めてみるとアイコナール方程式の基とな(74-19)式は一体何を表してい
るのだろうか?
V
というのは点 Aが微小距離移動し点 Bと成り、それに伴い像平面上の通
過点も A’から B’に移動して、その場合の光路長(アイコナール)の変化を表している。物
界で
x
方向に点光源が微小変位した場合の光路長の変化量は、光線進行方向の方向余弦に
屈折率を乗じたものに等しい。
この結果は本連載第 42 回の物界と像界の点が其々共役関係にある場合の光学的余弦則
からも導くことが出来る(図 2、角度φとαは(1)式の関係にあるので、下記(42-1)式と
73-4)式はそもそも全く同じで式ではあるが)。第 42 回(1)式、

coscos ndrrdnAAPP
42-1)
は直ちに(74-18)式に連なる。諸元は以下の図の通りである。
2 共役結像の場合に、光学的余弦則を考える。
ここまでの余弦則の考察は 2次元面内であったが、3次元的のも同様の考察が可能である。
Z軸方向については本連載 17,18 回でも触れている。従って、距離を表す線分 dr も立体的
に(dx,dy,dz)と置けて、角度Φは x,y,z 軸からの角度(α、β、γ)に置き換えれば(3)
光路長を表す(42-1)式は成分ごとに
coscos ndxxdndV
x
coscos ndyydndV
y
3
coscos ndzzdndV
z
と書ける。
ここで、物界の Bの位置のみ変化した場合を考えよう。本来は同じ角度で Bが変化すれ
ば一般的には B’の位置も変わってしまうのだが、Bからの光線角度を微妙に調整すれば B’
を不動とすることは可能である。この微調整角度は極微小な角度と成るので無視できる。
ると、上記(3)式から、
cos,cos,cos n
dz
dV
n
dy
dV
n
dx
dV
(4)
cos,cos,cos n
zd
dV
n
yd
dV
n
xd
dV
Φ
Φ
が得られる。偏微分の表記と方向余弦を用いれば(74-19)式とまったく同じになる。つまり、
当然のことではあるが74-19式は、(73-4)式、或いは42-1式で表される内容を原因の
要素に分解して表示したものに過ぎない。なにより(73-4)式、42-1式は幾何光学において
重要であって、(74-19)式はそれを基に光学系の働きの理解を進めるための表現である。
図3 立体的な角度の表示
β
Z
α
γ
2. 参考文献
1) 松居吉哉:収差論(JOEM,東京,1995.
2) A.Walther: The Ray and Wave Theory of Lenses
(Cambridge Univercity Press,Cambridge,1995)
3) W.T.Welford:Aberration Of Optical Systems (AdamHilger, Bristol,1986)
4) M.Born & E.Wolf : 光学の原理Ⅰ,第 7版/草川徹訳(東海大学出版会,2005)
5) 牛山善太,草川徹:シミュレーション光学(東海大学出版会,東京,2003