LED 照明ノーツ 16
レンズを使う 3
<レンズの結像関係を表す式>
前々回において、光線の結像がどの様に起こるのか概説させていただいて、光線が
空間をいかに進むのか、屈折率の異なる媒質境界面で如何に屈折され、あるいは反射され
るのかについて触れた。そして、sinθをθと近似することにより(近軸近似)理想的な像
位置が得られた。この近軸近似の精度については前回に触れさせて戴いている。今回はこ
の近軸理論より得られる成果について解説させていただきたい。そこから、物体、像の位
置、そして結像倍率まで計算することが可能となる。
1.焦点距離
これまでにお話しさせていただいた様に、ガラス、空気などが接する境界面における
光線の屈折の方向はスネルの屈折則、
2211 sinsin
nn
により計算できた。ここで角度θが微小である仮定してしまえば上式は
sin 2
と簡単になる(1次近似式)。スネルの屈折則も
2211
nn
3
と簡単な式になる。これらの簡単な式で光線の進み方を考え、光学系による結像を考察す
ることができる。本連載 11 回図6をここに表す。
14 6 SINθを用いた光線追跡図()と、近軸領域における結像(下側)
この時、どの様な計算でこの図が描けたのかについては説明をしていないが、今回はその
やり方について解説させていただきたい。
近軸理論から導かれる結像についての最初の重要な量は焦点距離と呼ばれるものである。
以降しばらく簡潔のために、レンズは厚さのないに等しいごく薄いものとして扱う。
1 焦点距離
図1に焦点距離の定義を表す。簡単に申せば、光軸(光学系の回転対称軸)に平行な光線
が光学系に入射すると、近軸理論の範疇では(つまり(2)式と同様の三角関数近似を用いて
屈折、或いは曲面上の座標を計算すれば)光軸上のある一点に光は収差無く収束すること
になる。
その時の収束点を焦点、と呼び、厚さのないレンズから焦点までの距離を焦点距離と呼ぶ。
1(a)はレンズの前から光を入れて、レンズの後ろに焦点ができた場合、(b)は逆方向から
光を入れて前方に焦点ができる場合である。一般的に(a)の場合を後側の焦点(あるいは焦
点距離)と呼び、(b)の場合を前側の焦点距離と呼び、それぞれ f’,f で表される。もし光学系
の前と後ろの空間が同じ屈折率の媒質で満たされていればこれら二つの焦点距離は等しい。
この焦点距離はレンズなどの光学系にとっては非常に重要な定数である。
2.近軸結像状態を表す重要な式
さらにこの焦点距離を用いて表される、以下の重要な式がある(2)
2 レンズメーカーの式
f
n
a
n
b
n
4
物体(被写体)のある空間の、そして像のある空間の媒質の屈折率をそれぞれ n,n’として、
物体からレンズまでの距離を
a
、レンズから像までの距離を
b
としている。f'は上述の焦点
距離である。この(4)式はレンズメーカーの式、と呼ばれるほど、光学系を構築する場
合には重要であり、重宝する式である。焦点距離 f’のレンズから物体までの距離
a
を決めれ
ば、(4)式から
b
を得ることにより、どこに像ができるのか簡単に計算できる。
ここで、それぞれの量につく正負の符号の取り方について注意をしなければならない。
原則として、レンズからすべての量を測る。一般的には光源、或いは被写体は図の左手に
置かれるので、左から右に光は進み、その場合、レンズから左に測った場合はマイナス、
レンズから右に測った場合はプラスとする。従って図 3における
a
はマイナス、
b
はプラス
の値となる。
図3 曲率半径の+、-の取り方
焦点距離も同様で左から入った光軸に平行な光線群がレンズの右に焦点を持つ場合は
焦点距離はプラス(つまり正のレンズ)、もし、右に焦点を持たず、光が広がってしまう場
合には、あたかもレンズの左のどこかの点から光が広がっているように見える(虚像)の
で焦点距離はマイナス(負レンズ)と言われる。ここら辺の正負の考え方をしっかりして
おかないと、虚像の場合、或いは鏡を用いた場合などに(4)を適用する時に、非常に厄介
なことになってしまう。
また、(4)式には直接関係ないが、ついでに述べさせて戴けば、レンズの曲率半径の符
号の付け方も同様であって(3)、レンズ、鏡等の曲面から測り始め、その曲面の曲率中心
までの距離を曲率半径と称するのであるが、面から左に曲率中心があれば、マイナス、逆
に右にあればプラスとなる。
さて、話を戻させていただくと、屈折率は物体側と像側で等しければ、(4)式から消し
て、
fab
111 5
とすることができて、水中カメラなどの特殊な場合を除き一般的な式となる。しかし(4)式
に屈折率が残って居るのには重要な意味がある。それはレンズだけではなく鏡の結像にも
このレンズメーカーの式を対応させるためである。
鏡から反射して光が戻ってきた場合には屈折率に-1 を乗じれば(4)式はそのまま鏡面
反射の場合にも利用できる。その時の状況は図 4 に示す。またその場合の(4)式は、
fab
111 6
となる。また一般的な、集光することが役割の鏡であれば、図 4にある様に焦点は光学系
の左側にできる。従って焦点距離はマイナスで表される。
4 鏡の場合のレンズメーカーの式
3.横倍率
また近軸理論においては薄いレンズの中心 Hに入射した光線は同じ角度でレンズから
射出する。従って Hと光軸に垂直に立つ物体、Hと像の形成する 2つの直角三角形は相似
形であり、物体の長さ yと像の長さ y’の比は、
a
b
の比に等しい。yy’の比は横倍率と
呼ばる。物体がどの様な大きさで結像されるのかを知るためには大切な指標である。この
横倍率を
で表すとすれば、
a
b
y
y
M
7
となる。(4)式により結像位置のみならず像の大きさまで計算できることになる。
なお、図3からも分かる通り、像はこの場合、光軸を挟んで物体とは逆向きに形成さ
れている(倒立している)。その場合は倍率の符号はマイナスをとる。
4.レンズメーカーの式で分かること
(4)式レンズメーカーの式により例えば、以下の様な実践的な問題が解ける。
イ)物体の大きさと、所望の像の大きさが決まっていて(7)式中の
が決まっている)、さ
らに物体から像までの全体の大きさ(共役長と呼ばれる)が大体きまっている場合、
b
a
をその全体の大きさと見做し、適切な光学系の焦点距離 f’が得られる。
ロ)使用する光学系が決まっていて、その焦点距離 f’が判明していれば、どの位置に物体を
持ってくれば(
a
)、どの位置に像が(
b
)、物体の何倍の(あるいは何分の一かの)大きさ
で結像するのか(
)計算できる。そして、その場合、物体から像までの全体の大き
(
b
a
)も求められる。
光学設計の多くの場合(照明系も含めて)、最初期の段階でこのようにして、光学系全体の
可能性を考えることが多い。
5.参考図書
1) 小倉敏布:写真レンズの基礎と発展(朝日ソノラマ、東京、1995)
2) 高野栄一:レンズデザインガイド(写真工業出版社、東京、1993)
3) 永田信一:レンズがわかる本(日本実業出版社、東京、2002)
4) 松居吉哉:結像光学入門(JOEM、東京、1988)