LED 照明ノーツ 19
レンズを使う 6
<プリズムの最小振れ角について>
これまで、お話しさせていただいてきた収差の話からは少し脱線するが、今回はプリ
ズムによる光線の曲りについて解説させていただきたい。プリズムと言うものが光学素子
としては非常に一般的なものであるので、光学機器を使い熟すうえで、勿論有用な topic
あるが、プリズム面の連続としてレンズを考えることにより、レンズの収差発生の原因に
ついて考察する際にも非常に役に立つ知識である。
多少、導出式の部分が多くなったが、意外に単純では無いため、詳しく知りたい方も
おられると思い、記した。不必要な方は、(15)式以降の結果のみご参照ください。
1. プリズムとは
プリズム(prism)とは、光を屈折、或いは全反射させるための光学素子であ
り、硝子、水晶などの透明な媒質により成る、複数の平面により構成された多面体
である。像を回転させたり、あるいは光を分散させたりするために様々な形状のも
のが存在する。
ここでは、その屈折の性質を調べるために断面が図 1 にあるような、三角柱の
最も基本的なプリズム形状を考える。
1 プリズムによる分光
さて、硝子の屈折率は、光の波長によって異なるため、そこでのプリズム各平
面での屈折を、これまで度々登場した、スネルの屈折則
2211 sinsin
nn
で夫々考えれば、図1にあるように、プリズムを出る光の方向は波長によって変わ
ることになる。光の明るさが色に分かれたものをスペクトルと呼び、この現象を積
極的に用いることをプリズム分光という。
2.プリズムの最小振れ角
プリズムにおける、光線の屈折を細かく検討しよう。図 2 にあるように諸量を
とる。δは最小振れ角(或いは偏角)と言い、プリズムへの入射光と、射出光の為
す角度を指す。プリズム断面形状は二等辺三角形とし、媒質の屈折率を n,その頂角
の大きさをαとする。すると両側の稜面において以下の屈折則が成立する。
21 sinsin
n
2
21 sinsin
n3
2 プリズムによる振れ角について考える
従って、図 2 より振れ角δは、
2121 --
4
また、
22 22
22 5
よって、(4)式より、
-
11
6
となる。
さて、ここで、この振れ角が最小になる場合を考えよう(導出は主に参考文献1)
による。そのために、まず(6)式を入射角θ1で微分して、その値が 0となる極値の位置を
求める。
01
1
1
1
d
d
d
d
7
11
dd
8
さらに、(5)式を入射角θ1で微分すると、
0
1
2
1
2
d
d
d
d9
22
dd 10
となる。
(2)式をθ1で微分すれば、
1
2
21 coscos
d
d
n
2211 coscos
dnd
11
さらに、(3)式をθ1で微分すれば、
1
2
2
1
1
1coscos
d
d
n
d
d
2211 coscos
ndd 12
が得られる。ここで、(11)式を(12)式で辺々割って、
2
2
2
2
1
1
1
1
cos
cos
cos
cos
d
d
d
d
従って、(8)(10)式より、
2
2
1
1
cos
cos
cos
cos
(13)
となる。この式の両辺を2乗して、sin で表記すると
2
2
2
2
1
2
1
2
sin1
sin1
sin1
sin1
となり、さらに右辺に(2)(3)式を用いて、
2
1
2
2
1
2
1
2
1
2
sin
1
sin
1
sin1
sin1
n
n
1
22
1
22
1
2
1
2
sin
sin
sin1
sin1
n
n (14)
が得られる。この式を整理して解いていくと、
1sin1sin 2
1
22
1
2
nn
11
15
となる。当然、
22
16
でもあって、頂角に対して対称な状態で光線がプリズムに入射し、射出していく場合が最
小触れ角δ0となることが分かる。この時、入射、射出位置の高さは同じなので、二等辺三
角形を考えた場合には、光線はプリズム内部では底辺と平行になる。従って、(6)式より、
10 217
また、(5)式より、
2
2
18
であって、(2)式より、
2
1
sin
sin
n
であって、(17)(18)式より、
2
sin
2
sin 0
n
の関係が得られる。プリズムの頂角が分かり、最小振れ角が測定できれば、硝子の屈折率
nが分かることになる。調べたい硝子から図 1、或いは 2 の様な小さなプリズムを作り、
折率が測定できる。異なる波長について測定すれば、硝子の分散も測定でき、不明な硝子
も、硝種を推測することが出来る。因みに、精度の良い分光器を用いれば頂角、最小振れ
角は 1 秒以下まで追い込め、屈折率の小数点以下5桁程度までは、一般的に測定可能なそ
うである 2)
4.参考図書
1) 谷田貝豊彦:例題で学ぶ光学入門(森北出版、東京、2010)、P25
2) 大作:通信講座テキスト“光学技術の基礎講座”(トリケップス、東京、1993)、P18