LED 照明ノーツ 23
レンズを使う10
<アッベ数について>
前回、述べさせていただいた様に、色収差とは、一般的に、レンズを通過する光線の色・波
長の違いにより、レンズの媒質の屈折率が異なり、それぞれの波長による像面上収束点が一致し
ないことを言い、画像の乱れを引き起こす。この色収差は、焦点距離計算などにおける、光線追跡
計算の一次近似の領域においても存在し、或る意味では、最も基本的かつ構造的な収差であると
考えられる。(勿論、高次の領域においても存在する。)
ここでは、この近軸領域における色収差についての重要な係数、アッベ(Abbe)数について解
説させて戴きたい。
1.焦点距離の色収差
まず最初に、焦点距離fの薄肉系単レンズの焦点距離についての色収差について考えよう。
簡便のためレンズの厚さを0と考え、1 面、2面の曲率半径をそれぞれ r1、r2、硝子の屈折率をnとす
れば(図 1)、
図1
近軸光線追跡式より、
2
12
1
r
n
h
21
1
1
1
r
n
r
n
なので、焦点距離を f'とすれば、一般的な単レンズなどの様に 2 面で構成されている光学系の場
合には、
f
1
2
なので、焦点距離について以下の近軸関係が成り立つ。上式までの一連の導出の理解には多少
の近軸理論についての知識5)がいるので、ここでは以下の(1)式を前提として、(1)式からお読みい
ただいて構わない。

21
11
1
1
rr
n
f
よって、fについて解いて、

1
12
21 1
n
rr
rr
f
さて、ここで微小な屈折率差により焦点距離がどう変わるかを知るために、(2)式をnで微分す
れば、以下の式が得られる。
 
12
12
21 11
nfn
rr
rr
dn
fd
そして整理すると、λが変化する事による屈折率の微小変化δnに対する焦点距離の変化δ
fの関係が以下の通りに求められる。

1
1
nf
n
f
1
n
n
f
f
δnを一般的に分散、右辺の逆数を正にとって、
n
n
1
をこの硝材の分散率と呼ぶ。
2. アッベ数
通常、特定の領域の波長を表わす場合には、既存の物質から得られ、実験的に得やすい
Fraunhofer 6)を利用することが多い。また前回触れさせて戴いた人間の可視域
(380-700nm 程度の範囲)を考慮して光学では多くの場合(特に写真レンズの場合)d線、F C
などの色収差を考えることが多い。d線(587.6nm)を中心として、C 線(656.3)、F 線(486.13)の焦点距
離の色収差を考えれば、(3)式より、d 線を挟んで色収差はプラスマイナス方向、逆に出ると考えら
れるので、
CdFd f
f
f
f
f
f
11
d
dC
d
dF n
nn
n
nn
1
d
CF
n
nn
(4)式右辺の逆数νdをとり、正の値を考えると
CF
d
dnn
n
1
この値をアッベ(Abbe)数と呼び、硝材などの光学媒質の波長に依存した性質を表わす定数である。
当然、アッベ数が大きくなると、分散は小さくなる。本連載、前回第 22 回に掲載させていただいた
硝子表 7)の横軸にはこのアッベ数がとってある。
これまでの導出過程よりご理解いただける通り、あくまでもアッベ数は可視域の d 線を中心とし
た色収差の検討に用いられるべき値であることに留意が必要である。
さて、(5)式を(3)式に代入し計算すると
d
f
f
となり、焦点距離もアッベ数も限られた値の範囲(極端に大きかったり、小さかったりしない)にある
ので、一種類の硝子より成り立つ薄肉単レンズにおいては、必ず焦点距離の色収差が存在するこ
とが理解できる。
3.参考文献
学技術の基礎講座”(トリケップス、東京、1993)
小倉敏布:写真レンズの基礎と発展(朝日ソノラマ、東京、1995)
3) 高野栄一:レンズデザインガイド(写真工業出版社、東京、1993)
4) 辻内順平:光学概論Ⅰ(朝倉書店、東京、1979)
5) 松居吉哉:結像光学入門(JOEM、東京7)1988)
6) 村田和美:光学(サイエンス社、東京、1979)
7) http://www.ohara-inc.co.jp/jp/product/optical/opticalglass/data.html