LED 照明ノーツ 30
レンズを使う 17
<近軸理論によってズーミングの焦点距離の変化を
求めてみよう>
前回は、レンズメーカーの式を用いて、異なる距離にある被写体の写真を撮影するために、
前回計算した様なレンズの基本エレメントをどの様に配置し、或いはどの様に動かせば良
いかについて検討し、計算した。今回は前回の考えをさらに応用して、ズームレンズがどの
ように、そのレンズ群を移動させると、どのように焦点距離が変化するかについて考え、
体的な計算をさせて頂きたい。基本的には前回までに用いたのと同じ近軸理論式を用い、
ームと言うと少し複雑そうな感もあるが、考え方も全く前回、或いは前々回の延長線上にあ
る。
1. ズームレンズとは
ズームレンズは御存じのようにデジタルカメラには標準的に搭載されているものである
し、非常に当たり前の存在になっているが、ここでその定義について考えてみよう。
ズームレンズとは一般的に像面の位置を変えずに、つまりピントの合っている位置を変
えずに、被写体の写る範囲(結像倍率)を変化させ得る結像光学系を言う。フィルム、
撮像素子の大きさが決まっていれば、例えば撮影倍率を無限と考えれば、これまで検討
してきた近軸理論によれば、被写体の写る範囲、画角を変化させるためには、焦点距離
を変化させる必要があることが分かる。つまり、ズームレンズとは焦点面を固定したま
ま、焦点距離を変化させることの出来るレンズと定義できる。(焦点距離が変化し、その
時、像位置が一定にならず、変化してしまう光学系を一般的にバリフォーカスレンズと
称している。
24群アフォーカル系
こうした目的を達成するためのズームレンズのシステムにはいろいろなものが考えられ
る。例えば、レンズの前群、後群の間隔を可変として焦点距離を変化させる。そして、
焦点位置が変化しないように、前群、後群をひと塊で動かして補正する。この様にして
もズームシステムは形成出来る(2群ズーム6)
ここでは、ズームレンズシステムにおいてもっとも一般的な 4群アフォーカルシステム
というものを取り上げる。中望遠以上に用いられ、各群の動きに無理が無く、ズーミン
グの変化も大きくでき、応用性にも優れたシステムである。
1にそのレイアウトを示す。その名の通り 4群のレンズ群で構成されており、第 1
群はフォーカシングレンズ、第 2群はバリエーター、第 3群はコンペンセーター、第 4
群はマスターレンズと呼ばれる。第一群は前回に取り上げた前玉繰り出し方式で合焦す
るためのレンズ群である。またマスターレンズは焦点面に対して固定されている。従っ
て撮影倍率が一旦決まれば、動く可能性があるのは 2群、3群だけと言う事になる。ま
た、このシステムの特に重要な特徴であるが、3群、4群間の軸上光束、つまり、無限遠
点光源からの、光軸に平行にレンズに入射する光線群は、ここでも常に、どの焦点距離
の時であっても光軸と平行になる。そのようにシステムを作る。Afocal とは焦点を形成
しないという意味である。従って、ズーミング中のどの焦点距離においても像面はマス
ターレンズの焦点面にできる事になる。
1 ズームレンズの原理 4群アフォーカル系
このシステムの結像について近軸的に考えると、
f3
f3
f
f
P2 P1 焦点面
1群による像の位置 P1 は決まっているので、バリエーターである 2群の位置、焦点距
離も分かるのでレンズメーカーの式から、2群による像位置 P2 が決まる。
この位置 P2 から 3群までの距離を 3群の焦点距離
f
3となる様に 3群を配置すれば、3
群を通過した光線は光軸と平行となる。
光軸に平行な光線が第 4群、マスターレンズに入射するので固定されたマスターレンズ
の焦平面上に結像が起きる。
と説明できる。従って、図 1にある様に、2群の位置を若干移動させれば、レンズメー
カーの式から P2 も移動し、これに追従して P2 との軸上間隔を焦点距離 f3 となる様に
キープする様に 3群も移動する必要が発生する。こうすることにより、3群、4群間の軸
上光束平行性は保たれ、像面位置は一定する。また、図 1からも分かる様に同じ高さ
(光線の通過する位置の光軸からの距離)で光学系に入射した光線もこのアフォーカル
部での高さに変化が出て、像面に交わる角度が事なり全体の焦点距離が変化することが
分かる。本連載第 17 回にある通り、軸上光線の入射高さと最終収束角度の関係で焦点距
離が決まるのであるから。
3.薄肉系による 4群アフーカル系のズーミングによる焦点距離の変化を求める
ここで、実際に上記ズームシステムの焦点距離の変化の仕方を計算してみよう
焦点距離はこの段階で定めてしまう。図 2にある、
f
1 ,
f
2 ,
f
3 ,
f
4の値がそれぞれ既述の第
1群、2群、3群、4群の焦点距離である。12群間隔は 70mm である。与えられた条
件はこれだけである。ここからでも、4-像面間は常に 100mm であることは分かる。
ここからの解析のためには若干の計算が必要である。
の状態(初期状態)を考えると、
2群による像までの 2群からの距離を
b
2とすれば、レンズメーカーの式より、
-1 / 30 + 1 /
b
2=-1 / 15
従って、
b
2=-30 よって 23群の間隔
d
2は、3群焦点距離が 100 であるから、
d
2 = 100 – 30 = 70
である。ここで、本連載 28 回の近軸光線追跡式を思い出せば、焦点距離を計算するため
に光線の最初の入射角
α
101群での通過高さ
h
1=1 として、
α
1
α
1 +
h
1 /
f
1 0.01
α
2
α’1=α21群からの射出角度で有ると同時に 2群への入射角度である。あうると、2
群における光線通過高さを
h
2として、
h
2 =
h
1 -
d
1
α
1 = 1 - 0.01 × 70 0.3
同様にして、
α
2
α
+
h
2 /
f
20.01 + 0.3 /-15= -0.01
α
3
h
3 =
h
2
d
2
α
2 = 0.3 + 0.01 × 70 1
h
4
よって
f’
=
f
4 /
h
4 = 100
つまり、このレンズの、このズーミングポジションにおける焦点距離は 100mm と計算
出来た。
図2 4群アフーカル系のズーミング
f1=100 f2= -15 f3=100 f4=100
70
30
80
20
b2
b’2
P
P
Q
Q
100
d
2
d’2
の、ズーミングのため、2群・バリエーターが 10mm 像側に移動した状態を考えると、
基本状態と全く同じように考えられて、
-1 / 20 + 1 /
b’
2 = -1 / 15
従って b’ 2 = -60 よって 3群コンペンセーターも移動し、 d’ 2 = 100 – 60 = 40
そして、基本状態と同じように近軸光線追跡を行い、
α
1
α
1 +
h
1 /
f
1 0.01
α
2
h
2 =
h
1 -
d
1
α
1 = 1 - 0.01 × 80 0.2
α
2
α
2 +
h
2 /
f
2 0.01 + 0.2 /-15= -0.003333
α
3
h
3 =
h
2
d
2
α
2 = 0.2 + 0.003333 × 40 0.33332
h
4
よって
f’
=
f
4 /
h
4 = 300.01
この第 2のポジションにおいては焦点距離は約 300mm であることが計算できる。このレ
ンズは 2群の 10mm の移動により 3倍のズーム比を得ていることが分かる。
4.参考文献
1) 小倉磐夫現代のカメラとレンズ技術、新装版(写真工業出版社、東京、1995),p 86
2) 小倉敏布:写真レンズの基礎と発展(朝日ソノラマ、東京、1995),p 30.
3) 高野栄一:レンズデザインガイド(写真工業出版社、東京、1993),p 24
4) 中川治平:図解雑学、レンズのしくみ(ナツメ社、東京、2010),p 116
5) 中村壮一:中村壮一、藤江大二郎編、基礎からわかる光学部品
(オプトロニクス社、東京、2006),p 17.